老舗の品格

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梗 概

老舗の品格

感情の起伏が激しい親に育てられたヨシノは、他人の気分を害さないように生きていた。対人関係をさけてプログラマーになる。
 あるとき、オンラインショップで購入確率の高い商品を勧める、レコメンデーション機能の開発をする。システムの脆弱性に気づいて、上司に修正を進言するが、煙たがられて辞めることになる。
 国民年金の手続に役所を訪れたとき、窓口の公務員であるアラタから、副業を手伝わないかと誘われる。「技術者には分からないだろうが、うまい商売がある」と言う。気分を害してはいけないと思い、話を聞くだけ、と会社を訪問する。買い物、行政手続、病院の予約、ふるさと納税返礼品、金融商品などを一元化する高齢者支援ビジネスだという。ヨシノは断れず、ポータルサイトの開発担当者として採用される。

そのころ、高齢者に人気の老舗大手通信会社ココモが、新通信規格に対応したAR老眼鏡を販売した。普通のメガネに見えるが、レンズを兼ねたディスプレイに情報を表示させ、視界の文字を拡大表示できる。耳掛けの骨伝導スピーカーが補聴器の役割を果たす。高齢であることを認めたくない高齢者たちが、こぞって購入した。ヨシノは、AR老眼鏡を使って音声会話で買い物ができるアプリを開発。高齢者支援サービスの利用が活発になる。
 さらにレコメンデーション技術を駆使して、自社のふるさと納税返礼品を優先的に勧めることで、より高額の商品を、より頻繁に購入するように仕向けて利益を増やす。アラタから仕事を任されるようになり、自分の居場所ができたと感じる。
 しかし、突然、返品と苦情が増える。どこで買い物をしているか自覚していない高齢者が、ヨシノのショップと、ココモのショップで同じものを購入していた。アラタは「技術者には任せられない」と説明に奔走するが状況は改善しない。ケーブルテレビからの問い合わせがあり、マスメディアに嗅ぎつけられるかも知れない。
 ヨシノは「技術が分からなければ、社会も分からない。物事の仕組みが分からないからだ。商売をバラされたくなければ言うことを聞け」と、アラタに詰め寄る。アラタはヨシノに協力し、高齢者の通信を傍受。ココモがAR老眼鏡で集めた画像、音声、位置情報、活動記録を集めて、AR老眼鏡のサブリミナル効果で自社オンラインショップに誘導していた。そのレコメンデーション機能は、かつてヨシノが受託開発したもので脆弱性も残っていた。

ヨシノたちは脆弱性を突いて、通信を取得し、ココモの悪事を世界中に暴露する。EUはココモに対して、迅速な説明と対応を迫り、マスメディアのココモに注目する。
 ココモの対応が終わると、下落していた株価がもとに戻る。ヨシノたちは、事前にレコメンデーションによって、多数の高齢者たちにココモ株を買わせていた。株価が戻ったタイミングで株を売却させ、利益で大量のふるさと納税返礼品を購入させ、儲けを出していた。

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内容に関するアピール

これまで「情けない主人公のお仕事小説」っぽいのを書いたときに、先生方から言及されることが多かったので、最終はその路線で行くことにしました。

GAFAや中国のメガベンチャーへの懸念を目にすることが多いのですが、国内の大企業が、無邪気になんとかペイとかを作って、セキュリティがグダグダだったりするほうが気になりますので、題材にしました。ドコモもメール関連でひどい実装してたことがありましたが、この話では直接的に批判の意図はありません。

登場人物を、姓名どちらでも、かつ、男女どちらでも使える名前にしてみましたが、あまりうまく活用できませんでした。

評価の良し悪しに関わらず、言及していただけると、大変嬉しく思います。よろしくお願いします。

 

 

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課題提出者一覧