我が東京ドームは永久に不滅です!

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梗 概

我が東京ドームは永久に不滅です!

 民主主義が崩壊し野球の勝敗で全てが決定される時代。「皇帝」を自称する監督の下、巨人は「魔球」と「秘打」を駆使して「V99」を達成し世界を支配していた。
 メートルやキログラムといった単位は廃止され「東京ドーム」が度量衡の基準となり、他球場は次々に東京ドームのレプリカに改築された。他球団は巨人に抗う力もなく、V100が達成されるのは時間の問題かと思われていた。
 
 だが巨人の横暴に立ち向かう双子のバッテリーが甲子園に存在した。
 兄のピッチャー「晴虎はるとら」は、必ず三振にしとめる魔球「絶対三振」の使い手。
 弟のキャッチャー「明虎あきとら」は、必ず本塁打を打つ秘打「絶対本塁打」の使い手。
 彼らは二人だけで巨人の息のかかった球団に勝利し、甲子園を巨人の魔の手から守っていた。
 
 プロ入り可能な年齢になった二人を皇帝は巨人に入団させようとしたが、ドラフト結果はまさかの別球団への入団。
 皇帝は絶対三振と絶対本塁打の要因となる「最善の結果となるように過去を改変できる『因果律改変能力』」により、巨人への入団が回避されたことに気付く。
 対する巨人の魔球と秘打は「物理法則を無視できる『因果律無視能力』」によるもの。
 一計を案じた皇帝は二人を拉致し無理やり野球勝負をさせる。監督の目論み通り絶対三振と絶対本塁打という「矛盾」が生じたことでエラーが起こり、二人は因果律から消失した。
 
 因果律の果て。「甲子園の土」に導かれ「甲子園歴史館」に迷い込んだ晴虎は、1985ことを知る。
 「阪神」を日本一に導いた「バース」。皇帝は彼を因果律から無視することで歴史を変換し偽りのV99を達成していたのである。
 晴虎は歴史改変能力により1985年のあの日に遡る。歴史は歪められバースと続く二人が存在しない。しかし晴虎の能力により別の因果律から呼び寄せられた「3人」のバースが「バックスクリーン3連発」を達成し、巨人の野望を阻止する。
 
 だが皇帝はどの因果律にも存在しない「天覧試合」へと晴虎を導く。東京ドームのマウンドには晴虎、バッターは巨人に洗脳された明虎。
 皇帝、もとい「秦の始皇帝」の魂が明虎に乗り移っていた。「蓬莱ほうらい」と呼ばれた日本に存在した霊薬を飲み始皇帝は不死となったが、不老は実現できずその肉体は朽ち果てた。その怨念が始皇帝を日本に呼び寄せ、後に長島茂雄が宣言した「永久不滅の巨人軍」と呼応し真の「永久不滅の皇帝」になろうとしたのだ。
 自ら「天覧ホームラン」を打ち雌雄を決しようとする始皇帝。だが明虎の強固な意志により始皇帝は絶対本塁打を放つことができず、何万打席因果律を改変しても三振にしとめられ遂に始皇帝は力尽きる。
 
 あるべき時代に戻った2084年。甲子園春夏3連覇を決めた兄弟がドラフトの結果を待つ。二人を獲得した球団は――。
 
文字数:1200
 
 
●参考文献
 
◆東京ドーム
秋場良宣『株式会社東京ドーム「興奮と感動」のクリエイター』世界文化社,1991年.
保坂誠『わが国、初めての屋根付き球場 TOKYO DOME』ベースボール・マガジン社,1990年.
NHKプロジェクトX制作班『プロジェクトX 挑戦者たち 技術者たちよ、永遠なれ 東京ドーム 奇跡のエアー作戦 PDA版』日本放送出版協会,2004年.
東京ドーム | 東京ドームシティ.<https://www.tokyo-dome.co.jp/dome/>
 
◆読売巨人軍
牧野茂『巨人軍かく勝てり V9達成の秘密』文藝春秋,2000年.
矢島裕紀彦『石橋を叩いて豹変せよ~川上哲治V9巨人軍は生きている』NHK出版,2015年.
山室寛之『巨人V9とその時代』中央公論新社,2014年.
『週間ベースボール+PLUS Vol.4 週間ベースボール 別冊 夏星号 伝説の巨人軍 ONと栄光のV9 あの記憶を再び』ベースボール・マガジン社,2011年.
読売巨人軍公式WEBサイト.<https://www.giants.jp/top.html>
 
◆阪神甲子園球場
玉置通夫『甲子園球場物語』(文春新書 392)文藝春秋,2004年.
関西テレビ放送『一度でいいから見てみたい! 日本一有名なスポーツスタジアム!阪神甲子園球場の全て』ポニーキャニオン,2011年.(DVD)
阪神コンテンツリンク/朝日放送『THE HANSHIN KOSHIEN STADIUM ~大正・昭和・平成 悠久の時を経て~』ビクターエンタテインメント,2007年.(DVD)
阪神甲子園球場.<https://www.hanshin.co.jp/koshien/>
 
◆阪神タイガース
田淵幸一『ホームランアーティストの美学と力学』(ベースボール・マガジン新書 039)ベースボール・マガジン社,2010年.
玉起彰三『六甲山博物誌』神戸新聞総合出版センター,1997年.
中川右介『阪神タイガース 1965-1978』KADOKAWA,2016年.
村山実『炎のエース ザトペック投法の栄光』ベースボール・マガジン社,1993年.
ランディ・バース『バースの日記。』集英社,1991年.
鷲田康『1985 猛虎がひとつになった年』文藝春秋,2015年.
『週間ベースボール 別冊 空風号 1985年編』ベースボール・マガジン社,2019年.
『阪神タイガースオリジナルDVDブック 猛虎列伝 Vol.3,8,9,13,14』講談社,2009年.
阪神タイガース公式サイト.<https://hanshintigers.jp/>
 
◆始皇帝
司馬遷『史記1 本紀』(ちくま学芸文庫 シ2-1)小竹文夫・小竹武夫訳,筑摩書房,1995年.
逵志保『徐福伝説考 「徐福渡来説」の謎を追う』一季出版,1991年.
山本紀綱『日本に生きる徐福の伝承』謙光社,1979年.
吉川忠夫『秦の始皇帝』(講談社学術文庫 1532)講談社,2002年.

文字数:2409

内容に関するアピール

 「永久」という概念に人間は惹かれるものなのだろうか。
 紀元前三世紀。中国を制し度量衡の統一を成し遂げた秦の始皇帝は、自らの不老不死を望んだ。
 二十世紀。現役を引退した長嶋茂雄は、巨人軍が不滅であることを望んだ。
 
 徐福は始皇帝に対し蓬莱にある不老不死の霊薬を探すと言い残し、そのまま消息不明となった。
 一説によると蓬莱は「日本」のことだと伝えられている。
 
 後楽園球場に次ぐ巨人軍の新たな本拠地、東京ドーム。
 面積は46,755平方メートル、容積は124万立方メートルであり、しばしば「東京ドーム○個分」という表現が使われる。
 
 ここで思考実験を試みる。
 もし徐福が実際に日本で不老不死の霊薬を入手していたら?
 もし東京ドームが実際に度量衡の基準とされたら?
 
 ――もし巨人軍を率いる不老不死の皇帝が、野球による天下統一を目指すとしたら?
 
 答えは単純である。
 ――猛虎魂が、巨人軍を打ち砕くのみ。

文字数:400

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