梗 概
赤い空の下にある希望
低重力の環境を利用して、火星では特殊な医薬品の製造プラントが建設されていた。人口が三万人を超えた頃、地球で新興感染症が発生した。地球からの貨物を運搬している宇宙船が火星の軌道上で故障し、コロニーの近くに墜落する。コロニー統括本部は感染症を恐れて救助せず、墜落の事実も周到に伏せられた。
プラント区画で一人の技術者が死亡した。外傷はなく、毒殺とされた。人々が互いに疑いの目を向けるなか、第二、第三の犠牲者が出た。犯人探しは魔女狩りの様相を呈し、プラントに勤務する女性医師アリシアが捕らえられた。ニュースでアリシアの逮捕を知ったマイケルは、えん罪だと一目で見抜く。しかし死亡者は増え続け、プラント区画の隔離が決定され、人の往来が禁じられた。
マーズカナルと呼ばれる地下都市には、溶岩洞を利用した換気システムが張り巡らされている。そのメンテナンス用ロボット「モグラ」を利用して、プラント区画に潜入したマイケルは、拘束されていたアリシアを救出し、死亡者の詳細な記録を回収、感染症の発生を確信する。それは地球に蔓延するウィルスが原因であった。アリシアは墜落した宇宙船からパイロットのトム少佐を救出し、かくまっていた。回収した資材の中に、病原体のサンプルが入っていた。
アリシアはマイケルに治療薬の研究を依頼する。マイケルは地球では名の知れたウィルスの研究者だった。数多くのワクチンを開発、全世界的に接種されていたが、副作用報告が多発。ワクチンとの関連はなかったが、マスコミをはじめ多くの市民が正義の名の下に糾弾し、マイケルは地球に居場所を失っていた。
一方、地球への帰還も火星への着陸も認められなかったトム少佐は、ウィルス感染から一時は生死の境をさまよっていた。治療にあたったアリシアも感染している可能性が高い。そうしている間にも、死亡者は増え続けた。発症者がいつ爆発的に増えてもおかしくない。コロニーに汎用抗ウィルス薬はない。マイケルは、居住区に家族を残してきている。
死亡者は増える一方。マイケルは有効なワクチン株を同定し、製造を急ぐ。トム少佐の血清から抗体が採取され、治療薬も製造のめどが立った。完成間近となった時、マイケルは感染したマウスに噛まれてしまう。完成したワクチンをアリシアに託し、マイケルは崩れ落ちる。
死を覚悟したマイケルだったが、寸前に完成した治療薬で奇跡的に助かる。居住区の住民にワクチン接種を呼びかけるが、地球でのマイケルの噂がコロニー中に広まっており、誰も接種を受けようとしない。死亡者は増え、マイケルは己の不甲斐なさを痛感する。そのころ居住区では、マイケルの娘がワクチン接種を自ら希望する。また、接種したアリシアがプラント区画で治療に走る姿を見せ、ようやくワクチンは受け入れられた。
治療薬を満載した貨物宇宙船で、トム少佐が地球に帰還する。地球の人々が求めてやまないマイケルのワクチンとともに。
文字数:1200
内容に関するアピール
唯一実作提出を見送った第3回の「火星の野口英世」を最終実作に、と思っては見たものの、COVID19で講座も延期されるこのご時世、悩みました。あまりにも、現状がシリアスすぎて、それを超える小説は無理かも、と。
ですが、やはりどうしてもこの現状を避けたくなくて、ちょっとだけ、がんばってみようかと思います。
悩みどころは語り口で、テンション高く書いてもよいものかどうか……。シリアスになると、とてつもなく重くなりすぎてしまいそうです。時間もあることですし、しばらく考えます。
悩みに悩む最終実作になると思っています。
文字数:253