梗 概
手紙
人が恒年期を持った時代。
恒年期とは、身体を持たず人格だけで存在する時期を言う。人は胎児の状態から体内に埋め込まれたメモリによって生態情報を記録される。健康寿命の終わりを診断されると、肉体は処分又は再利用され、記録を元に人格を電界(電子に還る世界の意)へ移される。家族や友人、恋人など、元々つながりをもっていれば、人は電界と通じ、恒年期へ渡った人を脳内に呼び出し会話することができる。そうして、恒年期を越えて、誰にも呼びかけられない本当の死を迎えるまでの時間を過ごしていく。電界にいる者同士の交流はできず、あくまで外部から呼びかけられた場合にのみ応えることができる。恒年期を持つことにより、事故や事件、自殺による唐突な別れはなくなった。
物語の主人公、ヤエは学生で、時折り恒年期を迎えた祖母の助言を受けながら学校生活を送っている。仲間外れにされた生徒を庇ったことで他の生徒と上手くいかなくなっていた。それでも、両親や近所に住む年上の少年ノゾミ、何よりも祖母の存在によって明るく日々を過ごしている。
学校帰りにノゾミの家でゲームをしていると、家具や荷物が減っていることに気付く。ヤエが理由を尋ねてもノゾミは気にも留めない風だ。日を置いてノゾミの家を訪ねると、ノゾミの父に、ノゾミが恒年期に入ったことを聞かされる。驚いたヤエが電界でアクセスするが、ノゾミとは繋がらない。面識があるはずなのに、友達であるはずなのに、きっと彼は自分の気持ちに気付いていたはずなのに。ヤエはノゾミに何とも思われていなかったと落ち込み、祖母に相談することで気を紛らわす。
ある日、大停電が発生し、ヤエは電界との会話ができなくなる。祖母に呼びかけるが、返事は返ってこない。狼狽え、家のなかに引き籠るヤエ。両親の説得でなんとか学校に行くが、すべてが悲しく、クラスメイトと話す気にもならない。どんな状況でも態度を変えないヤエの打ちのめされた様子にクラスメイトは困惑し、自分だって会えなくなった人がいる、と泣き出してしまう。つられてヤエも大泣きし、自分にいやな態度を取っていたクラスメイトにも大切な人がいたことを知る。
クラスメイトと和解したヤエの元に、ノゾミから手紙が届く。突然自分の身体が寿命だと告げられ驚いていること。恒年期があるため、家を出ることを特別伝えなかったが、電界でヤエと会うだけでは辛いと考え、自分のために恒年期に入らない選択をすると書かれていた。最後に、大昔には恒年期はなかったが自分たちの命は続いている、何も変わらない、安心して良い、と。
電界に繋がらなくなったことで、子どもだけでなく全ての人々が大きな不安に襲われる。いつ誰がいなくなるかもしれない恐怖、自分が還る場所がなくなってしまったという絶望だ。自分と同じように怯える両親に対し、ヤエはノゾミからの手紙を見せ、大丈夫と言って抱きしめる。
文字数:1184
内容に関するアピール
未来はどうなるのだろう。生きるってなんだろう。死ぬってなんだろう。私ってなんだろう。
考えているだけではもどかしくなり、物語に頼っている身の上です。物語、特にサイエンスフィクションを描くには、現実を解剖しなければならない。仮説と変化、そしてオチという名の結末が必要で、始めること・つなぐこと・終わらせることのひとつひとつがとても難しい。そして締切は絶対ということを学びました。
課題の最後は、私たちの未来がどうなっていくのか、を検証するものにします。
執筆の発端が〝疑問を解消したい〟〝もやもやを何とかしたい〟という個人的動機なので、まとまりのない散文になりがちですが、結論を導けるように頑張ります。ひとりでもやもやしていても仕方がないので、まわりの人に伝えられる作品にして、読んでもらい、意思を伝え、感想をきっかけに議論をする。次の目標です。
文字数:369