梗 概
サノさんとウノちゃん
ある日、小野寺マキが風呂から上がって鏡を見たら、自分の右肩中空にオジサンが浮いていた。ここまで接近されていては悲鳴も出ない。目が合った。そいつに足はなく胴体を辿ると、オジサンの出処はまさかの自分の肩甲骨(右側)だった。
マキの驚いた様子にあたふたするそぶりは見せるものの、オジサンは淡々と自己紹介を始める。聞けばこのオジサン、私の左脳なのだという。世間では右脳は感覚型で女脳・左半身を司り、左脳が男脳で右半身を司っていて、それが目に見えるようになったのだという。しかし、マキの右脳の象徴する女子はいない。オジサンはあわてずに右脳の女子はちょっとシャイなのだといった。風呂でのぼせたのだろう。マキは眠ることにした。
翌日もオジサンはいた。寝起きに一瞬、右脳の子の髪の毛だけ見えた。夢ではなかったうえに、さらに困ることがあった。マキ以外の脳を擬人化した像も見える。通学の満員電車はいままでの倍の人数に見えるし、話声まで聞こえる。気分が悪くなったマキは、午前中は保健室に避難した。夢ではなかったし、しばらく付き合うことになるだろう。名前を聞いたがマキの右脳で左脳なので、マキ以外の個体の名称がない。安直だが、左脳のサノさん、右脳のウノちゃんと呼ぶことにした。
午後、おそるおそる授業に出ると、やっぱりクラスメイトも倍の人数見えた。他人の背面でようや彼らの生え方がわかった。肩甲骨から胴体が生えて、ぐるぐるとそれぞれの胴体の太さを維持しつつ巻き付いたうえで、上半身が肩の上に伸びている。サノさん曰くあれは脳梁で、情報の交換が行われているそうだ。
ウノちゃんも姿を現してくれるようになり、テスト勉強で疲れたある日、ウノちゃんがサノさんをよしよししていた。恋する女子高生は一瞬で察した。勉強で疲れたサノさんがぐったりしている隙に、ウノちゃんに話しかける。曰く、サノさんもウノちゃんもマキも元は同じなので、マキの気になる彼の右脳少女が大好きであるが、サノさんは彼女に夢中で自分はあんな風にはなれないのだと言う。ウノちゃんを元気づけようと思ったマキは、見た目から彼女をまねることにした。
マキの格好が板についてくると、ウノちゃんの雰囲気もそれっぽいものに変化した。サノさんも満足そうである。しかし理屈男、ちまちまと注文を付けてくるようになった。それに対してウノちゃんも反論して、けんかになることもあった。ウノちゃんの言い分は全部感覚的だから、基本的にサノさんの理屈に負ける。はじめはマキも仲裁していたが、だんだん手に負えなくなって、体がうまく動かなくなってしまった。右半身と左半身の動きが噛み合わず、歩くことすらままならない。マキは優柔不断な自分を反省した。理屈と感覚は相いれないものなのだ。妥協点を2人に提示してなんとか和解させたマキは、2人にすべて話し合いで解決するよう求めた。話し合いを重ねた結果、けんかはなくなったものの、マキの方は、なんだか前よりも優柔不断になった。
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内容に関するアピール
齢2x歳で仁丹を食しています。重いものを持つときは「よっこいしょーいち」。80年代後半~90年代のサウンドが好き。いろんなところで年齢を聞かれます。私の中にはおじさんが住んでいる。そう言われても全く驚かないです。
考え事をしていると、時折フラッシュのようにぴかっと一瞬だけ思考がよぎることがあって、それが、右脳の感覚や左脳の論理に基づくものであったらどうだろうか、私の頭の中のおじさんと、右脳をなんとか擬人化して話しかけてもらえないだろうか、そう思って組み合わせてみました。
実際に、片目を瞑っていくつかの質問に答えてみると、右目を閉じた時と左目を閉じた時では回答が微妙に違うらしいです。その違いがサノさんとウノちゃんの個性になるのだと思います。
サノさんとウノちゃんの大げんかで、互いに肉弾戦に持ち込み、身体に痣ができたり、腕や足がこんがらがってしまうなど、主人公の残念な巻き込まれ方を追求していきたいです。
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