梗 概
めめ
久方ぶりに故郷に戻った亨志郎は、目の神社を訪れて絵馬掛け所を眺めていた。この神社の絵馬は変わっている。「めめ」と書かれた絵馬に願いを書き、真ん中で割る。左方を掛けて、右方を持って帰る。そして願いが成就すれば、お礼参りの時に改めて右方の札を掛けるのだ。
突然、小学生くらいの女の子に声をかけられた。李という名のその子は、亨志郎が泊まる予定の旅館の番頭の娘なのだという。先に旅館に来てくれないと困る、と言って季は亨志郎を連れて行く。
旅館につくと番頭が出迎えてくれたのだが、番頭の目は二つずつ瞳孔があったので驚いた。部屋で二人になると、李が上着を脱いで腕を見せてきた。その腕には沢山の目が浮かび上がっている。サングラスを盗られ、李に目を覗き込まれている内に、亨志郎は全ての疑念を失った。
亨志郎が浴場にいると、真っ黒い目をした性別不詳の人が来て世話を焼いてきたので世間話をした。亨志郎には妹がいる。妹が病で死線を彷徨った時、亨志郎は神社で必死に祈ったのだった。無事に妹は高校生になったが、最近また体調が悪そうなので亨志郎は神社にお参りに来たのだ。湯から上がって部屋にいると、今度は李に右目の義眼を盗られてしまった。
夜、寝ようとすると、障子に沢山の目が張り付いていたので、番頭に苦情を言って追い払ってもらった。その後番頭と立ち話をした。目の神社の霊験あらたかさ。絵馬は代わりに過ぎないという事。願いを本当に叶えたいなら、左目を捧げるといい。
目の一つや二つで妹が助かるなら安いものだ。翌朝、亨志郎が神社に向かおうとしていると、引き止めてきた李が左目にキスをした。それきり亨志郎は、妹のことを忘れた。
亨志郎が旅館の庭を眺めていると、六つ目の男がやってきた。驚いた事に彼は中学生時代の友人だった。今は通いの庭師をしているらしい。思い出話で盛り上がっているうちに、友人は亨志郎の記憶が盗まれていることに気づく。友人が李から記憶を取り返してくれたおかげで、亨志郎は妹のことを思い出した。
翌朝、亨志郎は自らの手で左目を抉り出した。李を呼び、神社まで連れて行ってくれと頼む。何も見えず李に手を引かれる亨志郎は、神社とは違う所に連れて行かれていることに気づく。李を止めると、帰らないでとすがってくる。その見え空いた嘘泣きを哀れに思った亨志郎は、妹が大人になったら李の元に戻ってくると約束する。李は喜んで、自らの左目を抉り出して亨志郎の眼孔に入れた。亨志郎は、袂に入れていた自分の左目を李に託した。
ある日、大学生になって一人暮らしを始める妹の引っ越しを手伝っていると、不意に知らない旅館の幻を見る。歩き出そうとすると、妹の声に引き止められた。危うく車に引かれるところだった。まだ死ぬわけにはいかない。せめて妹が大人になるまでは。大人。大人とはいったい何歳をいうのか。解らないが、妹が亨志郎を必要としている間は。
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内容に関するアピール
地元に目の神社があるんですけど、そこには「めめ」って書かれた絵馬がいっぱいに掛かってるんです。それも、左側の「め」は鏡文字になっている。異様な光景です。それを再現しようとして鏡文字フォントを使ったんですが、このサイトでは反映されないようで残念至極。
今回の題材は、盗みを働いた分だけ腕に目が浮き出る百々目鬼という女の妖怪です。盗むことで存在する少女が、最後に与えることで本当に欲しいものを手に入れる話にしました。いるはずの神が影も形も見せない世界で、我が物顔に振る舞う少女だけが全てを知っているんじゃないかな。
妹の為に眼球抉る話を書く、と知り合いに言ったところ、まあ妹の命が助かるなら目くらい抉るけど、という言葉が返ってきました。お兄ちゃんって大変だなって思いました。生まれてこの方妹だったことしかない私にはよくわかりません。何も見えなくなるととても困るので、目は大事にした方がいいと思います。
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