メドゥーサの合わせ鏡

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梗 概

メドゥーサの合わせ鏡

序・現代

無人のルーヴル美術館に二人だけの来館者。髪を布で覆ったサングラスの女と、車椅子に乗った金髪碧眼の少年。二人はミロのヴィーナスを見ている。

神話時代

洞窟。秘教の集会が催されている。教団を率いるディオニュソスが、神々は量子的な揺らぎの中に存在すると説く。血筋や物語に異説があるのはそのためだ。巨人族の血統と神酒がその振舞いを可能にする。アポロンとヘルメスが飛んできて、余計な知恵を人間に授けるなと諌めに来る。そこにメドゥーサが現れる。

数ヶ月、遡る。メドゥーサはペルセウスに勝利した。ペルセウスが勝利し英雄となる世界とは、異なる世界が確定する。化け物扱いで辺境へ追いやった世界への復讐を誓い、オリュンポスを目指す。しかし勝利の策がない。

旅の途上の森の中で、合わせ鏡に無限に映る自分に恋焦がれる少年、ナルシスに出会う。同じように、鏡で世界を囲めば、全てを見ることができると思い立つ。メドゥーサが見てもナルシスは固まらない。見る・見られるという互いの眼差しが必要なのに、ナルシスは自分しか「見て」いないためだ。メドゥーサは、ナルシスから存在を認知されないまま、旅に連れ出す。

二人は鏡を製造する職人を探し求め、鍛治の神ヘファイストスの居場所を知る。ナルシスが彼の正面から色仕掛けで口説き、背後に立つメドゥーサが鏡の製作を依頼する。他の神々から除け者にされている鍛治の神は二人に従う。

再び、教団。ディオニュソスたち三人は鏡に囲まれ、メドゥーサの目から逃れられない。量子的に固定されてしまい石になる。ヘルメスだけは、敢えて逃がされる。

オリュンポス。帰還したヘルメスと総大将のアテナ、ついでにゼウス他大勢が集い軍議を行っている。ゼウスは軍議そっちのけで量子的存在として地上へ赴き女を抱く、神の子が続出。ヘラがモグラ叩きの要領で否定して回る。ゼウスの子が英雄として戦力に加わるには時間がない。アテナとヘルメスは親夫婦を無視して、オリュンポスの守りを固める策を練る。ヘルメスの余命も短いとアテナは察し、全身が石になる前に飛び回れるだけ世界を廻れと命ずる。伝令のおかげで神々や半身半獣の者たち、ゼウスの血を引く英雄たちが馳せ参ずるが、アテナは内心期待していない。

決戦の日が来る。オリュンポス山を囲むように宙に浮く多数の鏡。移動するメドゥーサの影をそこに認め、目が合った者は瞬時に固まっていく。アイギスの盾(ペルセウスに授けたものの姉妹品)を持って戦うアテナだが、勝敗は光の速さでついてしまう。

戦いの中で、ナルシスはメドゥーサが存在することを認める。見つめ合う二人。初めてメドゥーサを「見た」ナルシスは石になってゆく。メドゥーサはナルシスと唇を重ねる。

神話の時代は、石となって終焉を迎える。

終・現代

車椅子の少年は、人形だ。石のように動かない。
「これから、どこ行こうか」

女はサングラスを外し、布を外して蛇の髪を振りほどく。

文字数:1200

内容に関するアピール

ミロのヴィーナスをモチーフとして第9回課題の梗概を書きました。その時に名前だけ出てきたメドゥーサのことがとても気になってしまい、彼女が何者なのかをもっと知りたくなりました。いったい、どうやって世界を滅ぼすのだろうと考えていたら、素敵な少年が現れました。この二人なら、やってくれそうだ。ということで、メドゥーサとナルシスが旅する物語です。メドゥーサという名は「支配するもの」という意味を持つそうです。これは主神として世界に君臨する可能性がありながら辺境に棲まう妖怪とされてしまった女の復讐の物語であり、また、ナルシス少年が他者の存在を認め心を開いてゆく物語でもあります。

第9回課題のラストシーンを受けて、物語はルーヴル美術館からスタートします。

ここまでの1年近く、自分は何が書きたいのか、何を書けるのかを考えながらやってきました。少しは成長できたと思っています。その成果を最終作にぶつけようと思います。

文字数:400

課題提出者一覧