梗 概
スターラー毛布
1
3階に着くと青い金属製のドアが見える、教室のなかにはグループでだべってるやつ、ジャンプ読んでるやつ、ウィ入れやってるやつとかいろいろだ、おれは席につく、髪の毛が思いどおりいってるか気になる、1時間目ギリギリにすみちゃんが教室にはいってくる、間に合ったところをみると今日はうまく起きれたらしい、彼は前の席につく、「昨日さ、17時ごろ北朝霞で武蔵野線にのりかえてさ」後ろを向いて彼は話し始める、おれは彼が新秋津駅に住んでいて北朝霞駅からだと15分くらいだということを知っている、「たぶん寝ちゃったのね」「うん、それで」「それで、起きたら新秋津だったんだよ、でも、19時だったんだよね」「え?」どうやらすみちゃんはいちど武蔵野線の終点である府中本町駅まで行って折りかえし、反対の終点である西船橋まで行って折りかえし、その日3度目の新秋津駅で起きたらしいのだ、おれとすみちゃんは授業がおわったあとウィイレもせずにその話でもりあがっていた、すみちゃんが椅子になった、おれも椅子になっていた、とみおかもたけうちもよしはらも椅子になっていた、前の席の椅子はすみちゃんになっていた、椅子になったすみちゃんが「地元駅2回も通り過ぎるってある?」と言いながら笑っている、新宿駅ビルが空に浮かんでいるらしい東京ドームは硬球を吐き出しているらしいおれの地元武蔵浦和駅はライブタワーがしゃべったらしい、買ったばかりのAUの携帯にそのようなニュースやメールがながれてくる、どうやら日本中が
2
「にいちゃんここにお湯いれてくれや」「お湯ですか…」首のところに耳がひっついて頭が横向きのおじさんがレジのむこうからコーヒー缶が2本入ったビニール袋を差し出してくる、なんで? そう思いながらおれはビニール袋にお湯を注ぐ、「そんぐらいでいい」縦に開いた口からおじさんはそう言ってビニールのもちてを握ってお湯でパンパンになったビニール袋を縛るようにくるくるまわした、「おうっ、ありがとあんちゃん」なんだったんだ、そう思いながらおれはまたレジに立つ、おれが高校3年生のとき、もうだから12年前か、そのときからカオスなのだ、あのころ高校のおれたちのグループではちょっとでもズレたことがあると適当に「カオス!」と叫んでいた、「おいおい!お前マリカーつよすぎやろ!何連勝してんだ!カオス!」「カオスカオス!」意味の厳密さなどぜんぜんかんがえることなんてなかった、「おれたちサイゼで朝まで遊戯王カードで遊んでんのやばくね?」「カオス!」なにかの呪文のようにおれたちはそう叫んでいた、そうしたらあの日すみちゃんが終点を往復した次の日向こうからカオスがやってきた、おれはもうレジに顔が横向きになったおじさんがきても昆虫とのキメラみたいな女子高生がきても天井にあたまがつくぐらい大きなおじいちゃんがきても驚かない、ありふれたことだから、ほらおれが一日中あやつるこのバーコードーリーダーは牛タンである、ピッ、おれがバイト帰りに家の最寄り駅に着いたころスマホに緊急通知がくる、さいきんスパン短すぎないか…、「スターラー毛布着星まであと30分です。乱脈に備えてください」
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要町の自宅で広大な砂漠の砂に埋もれた石井さんをなんとか発見した、「こんどは砂漠かよ。まあいいけどさ」「こんかいは大変やった、窒息せんでよかった」石井さんは言う、石井さんの声はそのガソリンスタンドの看板みたいな大きな板のどこから発されているのかよくわからない、まろやかでおれを極限までなごませるそのすこし舌ったらずな声はたしかに石井さんの声だ、幾つかの専門家の説明では地球は毛布のような人間にとって不可視の物体につぎつぎに包まれているのだという、毛布に包まれるたびにおれたちの日常の乱脈度が上がるのだそうだ、生活に問題はないがこの背後にどのような科学的因果があるのかどのような理由で引き起こされているのかわかっていない
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退屈だ、ただこの星に似た星に交雑場包含フィールドをかぶせるだけの仕事、まだダメか、もう何年もこのフィールドをかぶせているが、あの宇宙からこの宇宙へ地球’を運ぶことはまだできていない、あの宇宙だと地球はもうすぐあぶない、だからあの宇宙の地球’を実験材料に選んだ、理論上は可能なはずなのだ、「もう1枚いこう」「はい教授」砂つぶをピンセットでつまむような精密さでフィールドを地球にかぶせる、「あ」「あ、きましたね」あっちの宇宙のものだった地球’がこの地球にとっての月よりすこし遠いくらいの位置にあらわれたことがレーダーでわかる、行ってみよう
教授とわたしは交雑場が地球上に影響を与えクリーチャーだらけになった地球と対面する、「1千万分の1モデルではこのような現象は生じなかった。宇宙間移動の挙動中に見落としがあるにちがいない」「あそこはまだ調べきれていないところありましたもんね。どうします?この地球’はこの位置に置いておくんでいいですか?」「どっちでもいい。害も益もないだろう。どっちでも」
文字数:2066
内容に関するアピール
ウィルスのことで仕事がゴッソリなくなり、制度を調べたり、仕事を探したり、家具や服を売ったりと、負荷満載状態だったのですが、書けるだけ書こう!という気持ちでギリギリではきだしました。とりとめがなく且つ文字数制限スーパーオーバーなものになってしまい申し訳ありません…。
星全体を『宇宙船地球号』のように考えて、星が何かにまきこまれつづける。そのなかで生きている個人の生活を描きたいと思いました。しかし、その現象がどうして起きているのか?どのようなメカニズムで起きているのか?を捻出することができませんでした。
どうにかひねりだせるよう頭を絞ります。読んでいただきありがとうございます。
文字数:288