梗 概
ミチュエーリのカノン
時空間移動が日常化した未来。地球上の全事象を巨大コンピュータで把握可能となった年を基準とし新地球暦が定められ、それ以前の歴史改変が禁じられた。
カノンは時空間コンタミネーション防疫課に勤務する疫学研究者。幼稚園の遠足で、ジュラ紀の弱っていた黒い生き物を助けた。それが大発生し、人類の生存を脅かす存在になる。正常の歴史に戻すべく、多大な労力をかけて退治する騒ぎとなった。以降、カノンの時空間移動は当局に禁止されている。
地球外からきた病原体が原因と考えられているミチュエーリ症候群の疫学を研究するカノンは、最初の記録がある二百年前にさかのぼって原因を究明したい。それが許されないから、中途半端な成果しか上げられないと思い込んでいる。一方、時空間移動監視課に勤務するアキラは、幼稚園からの幼なじみでライバル。時空間移動を禁止されているカノンを後目に、時空間を自由に移動する監視官としてエリートコースをひた走る。
カノンは、内緒でタイムトラベルを企てる。時空間移動監視課にばれないために、ネコの姿で時間をさかのぼった。雪が舞い散る寒い夜に、カノンは車にはねられてしまう。気が付くと、暖かい部屋で寝かされ、ハルトが心配そうに覗き込んでいた。
カノンの怪我は回復に向かう。滞在時間が切れたため、喜ぶハルトを残して元の時代に戻る。病原体の情報をつかむことはできなかった。ところが、その病原体を運んだのはカノンだった。実験室で身体に付いた病原体を、そのまま過去に運んだ。ハルトは初の感染者となる。
自分が原因だと知って激しく後悔するカノン。ハルトだけは助けたい。治療薬を手に、再度、ハルトのもとに向かう。ハルトの体調はすぐれないが、ネコのカノンを見ると部屋に招き入れる。治療薬をハルトに投与しようとしたその時、ハルトの母に見つかり窓から放り出される。治療薬が道路に打ち付けられるが、一本だけ無事なアンプルが残っていた。手を伸ばすカノンの目の前で、アキラがアンプルを踏み砕き、そのままカノンを元の世界に連れ戻した。
傷心のカノンは、太陽系外縁部の前線基地に自ら転勤する。ある日、太陽系外から侵入するかなり昔の型の地球製宇宙船が発見された。ミチュエーリ病原体が船内に蔓延している。宇宙船は地球へまっすぐ向かっている。大気圏突入で燃え尽きてしまえば、すべて解決、と立ち去ろうとしたその時。カノンは、倒れているハルトを見つける。
何かを助けようとするたびに問題を起こしてしまった過去が、カノンに二の足を踏ませる。しかし、傷づいた自分を救ってくれたハルトを見捨てられるはずもなく、救出を決意する。大気圏突入までに時間がない。間一髪で脱出する。
戻ってきたカノンは、アキラがハルトをロケットに乗せて飛ばしたことを知る。回復したハルトは、カノンにネコの面影を見るが、当人とは気が付かない。カノンは元の職場に復帰し、疫学研究に忙しく過ごしている。
文字数:1200
内容に関するアピール
過去の失敗が足かせになり、それを外そうともがいてさらに深みにはまって再度失敗することは、まま、あります。
そういう主人公が、ぎりぎりで自信を取り戻す話です。一見意地悪に見えるライバルも、実は主人公のためを思っていた、というような、明るい幸せな終わりにしたいと考えています。
工夫のしどころは、ネコに変身して過去にさかのぼるところで、様々な制約を課して面白くしたいと思っています。
最後に昔の宇宙船に乗ってハルトが戻ってくるのは、ウラシマ効果、ということで。宇宙船の中でいい感じに成長して、カノン好みの青年になっています。カノンを覚えてはいませんが。
1年間、長文がなかなか書けないかわりに、梗概の文字数制限に命を懸けてきましたが(笑)、今回もきっちりおさまったので、これだけは褒めていただけるかと思います。
文字数:349