バックファイア

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梗 概

バックファイア

中口葉子が夢コントロールデバイスIn:Dreamを買いホクホクして帰ると、結婚のお知らせが来ていた。送り主は松崎治人、葉子の学生時代の元カレである。相変わらず律儀だとおもったもののIn:Dreamに夢中だったこともありスルーする葉子。In:Dreamはバックファイア法と呼ばれる、交感神経と副交感神経の作用を利用したデバイスだ。もともとは感情制御ができず生活に支障をきたしている患者のための治療法で、交感神経の働きが高まると、耳の付け根にインサートされた小さなカプセルから薬剤が発射される。この薬剤が交感神経をさらに高めるので、脳は体に負担がかからないように副交感神経の働きを高める。この作用の繰り返しと行動療法で、患者が社会に順応できるように訓練するのである。In:Dreamはその簡易版で、悪夢を見なくなるとか、不眠が治るという売り文句で飛ぶように売れている。実際に効果もあるらしい。
島で休暇をとっている夢が見たいと願いながら葉子はさっそく眠りにつくが、旅行先を探しているにもかかわらず楽しいことをしているのが母親にバレるたらどうしようと躊躇する夢をみてしまう。三十も過ぎて未だに母親にとらわれているのかと目がさめて葉子は泣いた。

その後、一週間たってもなかなかうまく夢をみれないので返品しようかと考えているとき、治人から電話がある。近況報告のあと、示談の条件にあったとおり母親を治療したので実害はなくなったと礼を言う葉子。治人が守れなくてごめんというのでなんともいえない気持ちになる。

事件は二人がまだ学生の頃のことである。少々エキセントリックな母親に、幼少期から姉と差をつけられ、抑圧されて育てられた葉子は、大学で治人と出会った。彼の影響を受け「人間になる」べく母の抑圧から逃げる方法を模索するようになる葉子だが、異変を察知した母親が治人を刺したのだ。

両家協議の末、示談の条件として母親がバックファイア療法を受けることが提示される。この治療によって母親はうって変わって穏やかになるが、副反応の記憶塗り替えによって過去に自分がしたことを全部忘れ、昔からずっといい母親であったと信じるようになってしまった。アンビバレントな気持ちに苛まれた葉子はもやもやしたまま、またIn:Dreamを使って眠ろうとするが、母親に治人と付き合っていることがバレる直前のことを夢に見てしまう。夢の中で治人と言い合いになり、彼に殴りかかろうとしたところで目が覚める。

ちゃんと幸せになってほしいという治人の言葉を思い出す。なにを言っているんだ、と葉子は思った。ちゃんと幸せになるための道を立ったのはあなたじゃないか。本当は母親に一言でいいから謝って欲しかった、そうでないならまともじゃないままでよかった、憎い、はやく死んでほしいとおおっぴらに詰って、まわりにも母親が異常だということをしらしめてやったら気が済んだかもしれない、幸せになる方法を見出だせたかもしれない。なのになにもする前から全部奪われたんだ。あなただって逃げたくせに、と治人に怒りを抱いた彼女は、どうしても楽しい夢を見れないのなら嫌な思い出の夢を見てやると、使用容量をまもらずふたたび入眠にトライする。

夢の中で葉子はあてもなく東京の夜の街をあるいている。あるきつづける合間にも治人から弁解のメッセージが入り、同じ境遇だったということを告白されるが無視する。母親からもひっきりなしに着信があるが、すべて捨てるつもりで歩く葉子。当時の記憶と夢がごっちゃになり、どうやって死ぬかということばかり考えるが、いつのまにか夜が更け、ふと車も音も途絶えた空を仰いだ時、葉子は星明りにパンドラの箱の中に残った小さな希望を思い出すのだった。

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内容に関するアピール

学生時代働いてた会社で、睡眠の質判定のアルゴリズムを研究していたことを思い出したので書きました。副交感神経が高くなると夢は見ないんですがそこはうまく制御してゆっくり深い睡眠状態に入るような、なんらかのデバイスもしくはシステムを考えたいと思います。

SF創作講座ではあまり家族の問題には深く踏み込まないようにして書いてきましたが、もともとはそういうのをよく書く(し、書きたいテーマでもある)ので、最後だし、字数に余裕もあるので書いてみようかなと思います

 

文字数:224

課題提出者一覧