猫を読む

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梗 概

猫を読む

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 2001年。先進的な思想を持った発明家やエンジニア、思想家たちを乗せた船「テラ・ノストラ号」がパナマ湾から出港したと噂が立つ。既存の国家共同体に嫌気がさした一部の知識人や学者たちは、独自の通貨、独自のネットワークによって数百人規模の独自の共同体をつくり、巨大な船に乗って行方をくらませたという。

 京都の大学生、末海子は、かつて同級生だった悟も留学中にその船に乗り合わせたと人づてに聞かされる。かつては毎日、顔を合わせて他愛もない話を何時間もするほど仲の良かった彼と会えなくなったかと思うと、彼女は急に彼が懐かしくなった。

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 2019年、末海子は結婚して東京に暮らしている。正月に子どもを連れて見に行った映画のエキストラに悟の姿を約20年ぶりに発見する。彼はあのおかしな自由主義者たちの船に乗り合わせて行方不明になったはずだった。映画の制作会社に問い合わせ、悟のことを尋ねると撮影監督のワタリという男から返事が返ってくる。悟に会いたいという末海子を、ワタリは「語学の授業」と言って散歩に連れ出す。

 悟との散歩が習慣化してしばらくすると、自宅に悟が姿を現す。悟と末海子、その息子と夫の共同生活が始まる。数年後、末海子は悟の子どもを妊娠しているが、彼は突然、失踪する。彼女たちが住むのの隣の市の開業医が彼を発見する。末海子が開業医に会いに行くと、彼は「あなたはこれが人間に見えるんですか」と意味深な言葉を残して悟を引き渡す。

***

 2010年代、元「テラ・ノストラ号」の乗組員がテロ組織やマフィアの資金洗浄をしているとか、大規模なサイバーテロに関わっているとかで何人か検挙された。

 当の「テラ・ノストラ号」は2015年にアイスランドの領海沖で、打ち捨てられた状態で発見された。中には腐った食料と、やや大きい猫のような動物数匹が残されていた。

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 2039年、40年ぶりに日本に帰国した山際悟は「バステト」という言語を学ぶサークルに迎えられる。「バステト」とは、かつて「テラ・ノストラ号」の乗組員たちが開発した人間を文字のように複製する技術なのだが、その文字が読めるものにはそれが人間に見え、読めないものには別の哺乳類に見えるという。悟は、教材として、20年前に日本に初めてやってきたバステトのテクスト「悟」を迎え入れた女性、村崎末海子の日記を読み始める。彼は覚えが遅くて一向に進まない。やがて彼は、その文書から村崎がバステトとの間の子を出産したことを知る。

文字数:1029

内容に関するアピール

主眼は

・人間を複製したテクスト

・「読める」ということによって人間として知覚されるなにか

というものです。人間として知覚されるためにテクストのメディウムは、自立して動くものである必要があるので大きな「猫」にしました。実作自体は以上の設定のもとで、末海子の一人称で進んでいく予定です。

今年学ばせていただいたことを遺憾無く発揮できる実作にしたいと思っています。1年間ありがとうございました。

文字数:191

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