開化海獣記

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梗 概

開化海獣記

明治19年、常陸国ひたちのくにの海岸にうつろ舟が流れ着いた。ユラと名乗る少女が乗っていた。

得体の知れない金属製のうつろ舟にほとんど言葉も通じない異様な風体で、ユラは外国の間諜と疑われ官警に突き出されそうになる。しかし鍛冶屋の笠崎鉄蔵かさざきてつぞうと、その養い子である物理学講習所生の渡辺勲わたなべいさおが、うつろ舟は二人の試作品だと申し出て助けられる。

鉄蔵は幕末には鹿島古流の道場師範であり、勲の父は鉄砲鍛冶を指揮する下級武士だった。同門の友人らと水戸藩校に学び尊皇攘夷派にくみしていた。二人は敵対する幕府方の最も過激な一団、天狗党の鎮圧に尽力し、やがて明治を迎えたが、新政府は二人に報いることはなかった。更に天狗の残党が家に押し入り、鉄蔵の妻と子、そして勲の父を殺害した。鉄蔵は失意の日々を送り、勲を引き取り鍛冶屋として働きつつ、現代では無価値となった剣術の鍛錬を行ってきたのである。

鉄蔵がユラを助けたのは、国家のためにという名目で真偽もわからずに人が罪を得ることを憎んだのである。

ユラは「人から注がれる思いを写し取り人に伝える」という機械仕掛けの手箱を持っており、鉄蔵がユラに亡くした娘の面影を重ねるごとに、言葉が通じ読み書きできるようになる。

養父がユラばかりを思い、勲はないがしろにされた思いを抱く。しかしユラが、「いはらき新聞」に連載されたジュール・ベルヌの『海底二万哩』を賞賛したことから心を通い合わせる。それは黒岩涙香の弟子と共に勲が翻訳した小説だったからである。

勲は外国語と鋳造技術を学び、機械工業を起こすのだという夢を語り、ユラは勲に物語をする。それは、さまざまな星を巡り、異星の生物を捕獲する仕事をしていた冒険者が地球を訪れたのだが、採集物の一体を逃がしてしまい星を渡る船も奪われたという話である。

やがて地震と地盤の陥没が続いて起こる。更にうつろ舟を奉納した海神宝物殿が地割れから伸びだした巨大な黒い触手に襲われ、鉄蔵が宝刀で切断し撃退するも、神主が落命する。

江戸中期より日本列島の地震は鹿島の大ナマズが暴れているのだという伝承があり、触手は地震を起こす鹿島の大ナマズのヒゲであろうと人々は噂する。

しかし鉄蔵はユラに疑念を抱く。ユラが海に近づいた時だけ災いが起こると気づいたのである。ユラが海獣を誘い込み操るのではないか。かつて信じたものに裏切られた鉄蔵はユラを疑ってしまう。

一方ユラは勲と共に、勲の父が隠していた火薬や鉄砲をかき集める。自分が罠となって「大ナマズ(実は異星生物)」を誘い出そうとするユラ。ナマズが巨大な本体を地上に表すが、鉄砲が不発でナマズを爆破できる場所に誘導できない。うつろ舟もろともナマズに飲み込まれるユラ。時遅く鉄蔵が刀を持って現れ「死に処を得た」と触手を切り、ナマズを動かす。勲が罠の仕掛けを発動させる。それは新時代の製鉄燃料、石油コークスと電気発火器で、黒い巨獣はもがきながら焼け崩れる。

残骸の中からうつろ舟を収めた大船が現れ、中にはユラと鉄蔵がいる。

ユラは鉄蔵を宇宙に誘い、勲は二人を見送る。

文字数:1281

内容に関するアピール

【補足】
・鹿島の大ナマズ:日本列島の下には大ナマズがいて、鹿島神宮の要石がナマズを押さえているという伝承。
・常陸国のうつろ舟:事実であると称した江戸期の伝奇小説のネタだが、北斎の息子が描いたうつろ舟の絵がアダムスキー型円盤に酷似していることから一部で有名になった。

何年か前、私の地元に伝わる「鹿島の大ナマズ」と「常陸国のうつろ舟」で海獣時代劇にしたら楽しいだろうと思ったことがありました。もっともそう思っただけで何の構想もせず書きもしませんでした。
時代物は一度も書いたことが無かったし、そのうち『シン・ゴジラ』が公開され、〈海から得体の知れない巨大生物が襲ってくる〉なんてお話は書けないなと思いました。
しかし。
これは駄目だろうと思ってばかりでは一歩も先に進めません。それに昨年は創作講座外で、生まれて初めて時代小説の短編も書きました。(創作講座OBによる『Sci-Fire』末席を汚し掲載いただきました。高橋文樹さんはじめ、関係する全ての方、読んで下さった全ての方に感謝しております。)場面描写など、既存作とは異なる切り口で書けるだろうと思います。

 

私は今まで書いて来て、最高に褒められた小説が全部、同時に全く駄目だと評価され続けています。自分が書いている物に対して全く判断ができず、自分を信じることができなくなっています。
それでも書きたいし読んでいただきたいという勝手なありさまですが、よろしくお願いします。

 

文字数:604

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