梗 概
案山子守
案山子守はカカシを訪ね歩き、カカシの話に耳を傾ける。
カカシはもう誰も来なくなった田んぼにずっと立っていた。黒くて分厚くて重いコートも始めは彫刻のようだったが、今では風雨にさらされてボロボロにで軽かった。被っていた麦わら帽子は、穴が空いて顔にずれ落ち、お面のようだった。
カカシは目の前の手入れのされていない田んぼの、自然が謳歌する世界を見るのが好きだったし、つい2年前まで毎日やって来ていた老人の男が手入れする田んぼの移りゆく四季も好きだった。映画のスクリーンのようにその変化を眺めた。田んぼにはたくさんのモノがやって来ては通り過ぎた。人、動物、風や雨、台風などの自然。カカシはどんどんと遡って、自分の人生を回想していた。カカシは最初の年の秋、ぴいぴいと鳴く雀がやって来た。他の雀とは違った声で鳴くその雀を、可愛いと思った。しかし、雀は老人によって追い払われた。カカシはその時、自分は面倒なことをしているのかもしれないと、思ったことを思い出した。
ガイコツは眩しさに目を覚ます。さて、いつからそこで寝ていたのか。光はあるが、目の前が白くぼやけていた。目のところに空いた穴に、蜘蛛の巣が張っていたからだ。巣を張った蜘蛛はすでにいなくなっていた。ガイコツの身体は全てを覚えていた。生きていた時に身につけた、筋肉の動かし方や、視覚による光の捉え方、脳の動かし方などを。幻肢痛の要領だ。
ガイコツは死を生きることにした。
ガイコツが彷徨っていると、ボロボロのカカシが立っていた。足元には死の白い花が咲いている。このカカシはもうすぐ朽ち果てる。片足しかない片足を死に突っ込んでいる。なのに何も疑問を持たずに運命を受け入れ、目の前の世界を満足している。ガイコツはカカシをバカにして、からかった。しかし、カカシは目的がない寄り道で時間を潰す途中だと言った。死を生きることは永遠を生きることだ。そんなことで死を生きることなどできないとカカシはガイコツに言う。
代わりに、ガイコツはカカシに歩き方を教える。存在しないもう一本の足を想像する方法だ。カカシは歩くことが出来た。それは変なリズムの歩き方だった。
道ゆくカカシとガイコツ。そこへ、ヘビがやってくる。ヘビは振動で冬眠から少し早く目を覚ました。カカシが歩く姿を見て驚く。春の長雨で嵩んだ川を下り、3体は海へ辿り着く。
カカシは初めての本物の海に感動し、ガイコツには異変が起きる。ガイコツは生前の罪を思い出すまで、記憶を遡ってしまう。
長雨の後の虹を見て、蛇は空を鏡と思い込む。
案山子守の正体は、人間になった、かつてのスズメだった。
文字数:1084
内容に関するアピール
砂について調べていた時、顕微鏡で見た目の前の情景を見たまま記述したという、レーフェンフックの世界を知り、その方法を取り入れて物語ができないものかと考えました。
登場人物たちのいる場所からみえる情景と遡る記憶と持ち合わせた役割を生かしつつ、反発しながら、今ある場所の外の世界を見に行こうとする物語です。
文字数:149