梗 概
アレフ・ワン
玉城博士は捕獲装置に閉じ込めたマイクロブラックホールに電子を一粒送り込むと、莫大な電力が“事象の地平の向こう側”から吹き上がる事を発見する。玉城は異常な電力の到来は、無限に重なりあう平行世界の存在によるものだと仮説を立てる。
異なる複数の世界
巨大ロボット・コンチナムのパイロットは悪のカーディナル帝国との最終決戦に備え、無限の出力を誇る熱血ド根性エンジンの最終調整を行う。
聖女ゲーデルは無の霧から王国を守る聖杯の無限の力を、枢機卿が手に入れようと画策する噂を聞いてしまう。
某恒星の惑星表面にて、自然発生した生物機械が無作為に組み合わせる石の山は、偶然にも無限を宿すほどの複雑性を達成していた。
玉城は平行世界間で電力を融通し合えるなら、計算能力も共有できないかと考えた。装置に計算機を接続し、本来ならノード間の情報伝達に使われる信号をブラックホールに送り込むと、装置は計算能力無限大の電子計算機として振舞いはじめる。
巨大ロボットは悪のロボット軍団と戦い、聖女は枢機卿の陰謀を探り、生物機械の作る石の山の蝶番様部品がガタつく。
研究所をアレフ・ヌルと名乗る少年が尋ねてくる。アレフは装置の破壊を要求する。玉城は警備員を呼ぶが、少年は超人的な力で排除の手を退ける。
装置を抱える玉城を、アレフは悠々と追い詰め、無限の重なり合いを私物化する事を糾弾し、世界の因果律を歪める危険な行為だと説得する。未発表の装置の特性を言い当てるアレフに玉城は恐怖するが、装置の無限のエネルギーは人類の貧困の解決策になると主張し、装置を渡さない。押し問答の末、痺れを切らしたアレフは玉城から装置を奪い取ろうとする。超人的な力に振り回されながら玉城は装置にかじりつき、電子線で頭部の一部を吹き飛ばしてしまう。
巨大ロボットはカーディナル帝国の猛攻に耐え切れず、奥の手である成功率0.00001%の秘密兵器の起動を決断する。
聖女は枢機卿の策略に囚われ、聖杯は奪われ、王国を霧から守る結界が消え去る。
生物機械の作る石の山は、蝶番様部品の破損により崩壊の危機を迎える。
玉城の脳の一部は情報を保ったまま装置内に移送され、別世界の異なる部分を吹き飛ばした玉城の脳たちが情報結合して意識を取り戻す。
アレフは、玉城が次のアレフだと告げて姿を消す。玉城は装置越しに、それぞれ頭の違う箇所を吹き飛ばした無数の自分を見る。
無限に分裂した玉城の意識は、無数の世界に存在する無限の力の源に宿る。しかし相互の同一性も失わない。無限の執行者となった玉城は、とりあえず……
巨大ロボットはド根性で出力を取り戻したエンジンの力で最終決戦に勝利する。
聖杯は穢れた枢機卿を消し去り、聖女の元へ返る。
生物機械の作る小石の山の蝶番は、転げ落ちてきた別の蝶番に偶然置換される。
玉城は無数の世界で無限の力を貸しつつ、無為に石を積み続ける生物機械の事が気になってしまう。
文字数:1200
内容に関するアピール
有名な数学の思考実験、”ヒルベルトのグランドホテルのパラドックス”を土台に、無限に重なり合うパラレルワールドへのアクセスが可能な装置があったなら、それ自体が無限のエネルギー生産装置や計算装置に成り得る……というホラ話を思いつきました。
すなわち、100部屋の客室があるホテルでは、宿泊客から1円ずつフロントに集めると100円しか集まりませんから、宿泊客が平等に取り返せるお金の総額も100円です。
しかし無限の部屋数があるホテルなら、フロントには無限円が集まり、宿泊客が10円でも1000円でも、無限円でも取れる……というホラ話です。
文字数:267