アンダーグラウンドメモリーショウ

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梗 概

アンダーグラウンドメモリーショウ

生まれた直後からの脳内チップの保有がすべての人の権利となり、記憶売買が行われるようになった。有意義な研究や教育に役立てられる面もある一方、プライバシー保護がないがしろにされたり、記憶ジャンキーと呼ばれる他人記憶依存症患者が大量発生するなど社会問題化し、個人間の記憶売買は法律で禁止された。しかし、記憶売買は闇産業として続けられた。

フリーターの日向雪湖ひなたゆきこはある日、怪しい電話を受ける。
「あなた、小さい頃に虐待されてましたよね? その記憶を売りませんか?」
 ナツメグと名乗った男が提示した金額に目がくらみ、雪湖は呼び出しに応じる。そこで雪湖は頭に違法チップを打ち込まれ、記憶を売って金を得た。しかし、違法チップのせいで、雪湖はまともな生活を続けられなくなってしまう。
 ナツメグは、過激な記憶を望む顧客を相手にする記憶商で、ひどい体験をした人を探しては記憶を買い取っていた。また、記憶を編集したり、シリーズ化するなど上手い売り方を心得ていた。何度も彼の元へ足を運ぶ買い手や売り手が跡を絶たなかった。雪湖も、売っても記憶が消えるわけではないので、頼み込んで自分の他の記憶も売っていった。
 その中で、記憶ジャンキーのジャックや、自分の記憶をすべて売ること(丸売り)を望む、四歳の息子を連れた二十歳のヒナや、記憶加工業者のゼンや、記憶売買合法時期に記憶を売りすぎて叩かれ、業界を干された元俳優の植木翔うえきかけるなどと知り合う。
 雪湖は、ジャックが自分を知っていたことに驚く。ジャックは、雪湖の幼なじみの記憶を買ったらしいのだ。雪湖は、ナツメグに幼なじみの文香ふみかのことを尋ねるが教えてくれず、自分で調べてみることにする。
 ヒナは、強姦された時の記憶を売ったことをきっかけにこの世界を知った。「一度足を踏み入れたら抜け出せない。息子には自分のようになってほしくないから、お金を稼いで、いい教育を受けさせるつもり」と語る。
 実は、ゼンは連続殺人犯だという噂があり、本人はそれを否定も肯定もしない。彼は、記憶売買を終わらせることを目指していた。「加工記憶が広く出回れば、誰も本物の記憶にこだわらなくなり、記憶売買は衰退する」。雪湖は、ゼンが記憶を売ってほしくない、取り逃がした被害者か目撃者でもいるのではないかと疑う。
 ある日、ヒナは植木に騙され、ヒナの息子は違法チップを埋め込まれ、記憶を搾り取られてしまう。それはナツメグが指示したことだった。若い母親に可愛がられる記憶を望む客がいたのだ。ヒナは怒り狂い、ナツメグに襲いかかるが、逆に殺されてしまう。
 その直後、雪湖は文香の情報をつかみ、会いに行くが、文香は丸売りをしたあとに自殺していた。雪湖が母親から虐待を受けていた時、心の支えになってくれた彼女は、借金を負わされていたらしい。
 雪湖は心底嫌になり、ゼンを信じて弟子入りし、記憶売買を根絶することを誓う。

文字数:1209

内容に関するアピール

もちろん現実ではまったく縁がありませんが、裏社会の雰囲気を書いてみたいと思いました。

軽く調べただけですが、ほかの記憶売買の話は、売ったら記憶が消えてしまったり、自分の記憶が偽物なのではないかと疑いが出てくるものなどがあるらしいですね。そうではない設定でも書けるのではないかと思います。

わたしは、SFファンの方にも、SFを読んだことのない方にも楽しんでいただけるSFを目指しています。
 また、講座に参加して、自分の持ち味は、テーマの重さなのではないかと思うようになりました。

最終実作は、この二点をしっかり意識して、今まで書いたことのない感触のものを仕上げたいと思います。

文字数:284

課題提出者一覧