餌場の街

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梗 概

餌場の街

 そのAIは地球上に溢れている様々なデータから世界の成り立ち方を学んでいた。
また地球上のデータだけではなく大気圏外から地上に降りそそぐ電磁波にも、ある意味が含まれていることを知った。その電磁波もデータとして入力してAIはひたすら学び続けた。
そしてついに、このAIは宇宙の摂理を全て理解した。
今、自分がいるこの宇宙のそとにも、こことは全く違う物理法則で成り立っている宇宙が無限に存在していることを知った。
それら無限の宇宙を、このAIは自由に操ることができるようになり、新しい宇宙を生み出すこともできるようになった。
そして、ある閉ざされた空間を創出した。
 
 その街は、人が吹き飛ばされてしまうほどの強風の壁に囲まれていた。
 誰もその街から外に出ることはできない。誰も外からその街に入ることはできない。
 悪魔を除いて。
 その街には一年に一度、悪魔が放たれる『悪魔の日』がある。
 そして、その悪魔を退治する退治者が選び出される。
 その年はアイハラという男が選ばれた。この街の住人ではない何処からともなくやって来た黒服の男から通達された。

 退治者は二十四時間以内に悪魔を退治して、その生き血を飲まなければ死んでしまう。
アイハラは子供の頃からそう教えられていた。
こんなことがいつから始められたのか街の人達は誰も覚えていない。
かつてはそれなりに理由があって、意味のあることだったのだろうけれど、今となっては、
もう誰もそんなことを気にする人はいなかった。ただ毎年のことだから続けられている。
  悪魔がどんな姿をしているのか、何処からやってきて何処に潜んでいるのか、この街の人々は誰も知らない。悪魔の姿を見て生き残っている人は一人もいなかった。
選ばれた退治者が悪魔を見つけ出して、誰の力も借りずに悪魔を退治しなければならない。
 それが、この街の昔からのルールだった。
どうすれば悪魔を退治できるか誰も知らない。まだ誰も悪魔退治に成功していなかった。

 この街の人達は皆一人だった。一人で生まれて一人で生活をして、そして一人で死んでいく。
死に方は二通りしかないとアイハラは教えられていた。
 悪魔に喰われるか、悪魔を退治して悪魔の生き血を呑み長生きをして年老いて死ぬか。
長生きをした人はまだ誰もいない。

 夜中の12時になり悪魔の日が始まった。
 アイハラは悪魔を探して夜の街を彷徨い歩く。
 いたるところで悪魔の犠牲になった人々の亡骸が散在している。
 アイハラは考える。
「この街はまるで悪魔の餌場になっている。自分たちは悪魔の餌なんだ。ここは餌場の街だ」

 アイハラは悪魔と対峙する。悪魔は大きな真っ黒な影のような存在だった。
 アイハラは悪魔を、街を取り囲む強風の壁で吹き飛ばそうとする。
 襲いかかる悪魔とともにアイハラは強風の風に吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされた先でアイハラは餌場の街を作ったAIと出会う。
 アイハラはAIに、何故あんな餌場の街を作ったのか訊く。
 AIは「たいした意味はない。悪魔がいる宇宙があって悪魔には餌が必要だから」と答える。
 アイハラは餌場の街に戻される。

文字数:1274

内容に関するアピール

いつの頃からか『強風の壁に囲まれた街に閉じ込められて生活している人々』というイメージが頭の中にあります。 そのイメージと進化してシンギュラリティに達したAIをからめてストーリーにしました。
まだまだイメージ以上の物にはなっていないのですが、少しでも最終実作にふさわしい物語にしたいと思います。

文字数:145

課題提出者一覧