パリピ

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梗 概

パリピ

見渡す限り島影一つ見えない太平洋を大陸艦デイワーンは航行していた。甲板は畑や樹々、浄水施設から流れ出る人口の川があり、巨大な島といった様相を呈していた。デイワーンは昼間静かに航行を続けるのみ。そして、夜になるとにわかに活気を帯び始めるのだった。

ハクアは生まれた時からデイワーンに暮らす少年。彼の祖父母が人口増加による食糧難を逃れるために船上生活を選んでから、陸に立ったことは一度もなかった。真夜中の黒い海と、人工の明かりで照らされた船室だけが彼の人生のすべてだった。

ハクアは高等教育を終え、農場に配属された。主な仕事は、貴重なタンパク源である植物肉の製造。研究員の資格を持ちながら身体を動かすのが好きな彼は、牧場に出入りするようになる。そこで、家畜の飼育員アースラと知り合う。

アースラがデイワーンへ入国したのはつい三年ほど前。それまで彼は砂漠で生活していたという。人口120万人のデイワーンから出入りする人は多くいたが、デイワーンでは賤業とされる飼育員を務めている彼は、生活になじめないらしかった。昼眠り、夜起きる。エネルギーの節約に努め、野菜ばかり食べている。

やがてハクアはアースラが話すパーティの話に夢中になる。アースラの故郷の砂漠では、年に一度馬鹿みたいなお祭りが開かれる。好事家の金持ちが高級スピーカーを戦車に積んで、爆音で音楽を鳴らし、電飾だらけのカカシを引きずってねり歩く。その祭りに参加した金持ちは翌年すかんぴんになって、また死ぬほど働くハメになる。なにもかも消尽する祭りを昼中行うというアイデアに夢中になったハクアは、パーティを行うことに決めた。

やがて、計画決行の日が来る。ハクア達は仲間に引き入れた循環機構管理官に酸素濃度の調整を仕掛けさせる。巨大な船は高度に管理された空調なしでは呼吸もままならない。二週間をかけて慢性的な酸欠とし、催眠ガスをダクトから流す。家畜の世話をするという名目で甲板に集まっていたパーティーの参加者以外は、深い眠りにつく。

パーティーは昼中続いた。酒と音楽で人々は酩酊し、白い肌を焼きながら眠りについた。ハクアは心地よい酩酊に身体を揺らしながら、海を眺めていると、高速で近づいてくる船を見つけた。

接岸した船から降りてきたのはPRRR(環太平洋歳入監督官)を名乗る男だった。パーティー参加者であるハクアたちは捕縛され、自国に戻されるということだ。「デイワーンが俺の国だ」ハクアが抵抗すると、PRRRは「国際法上はただの移民だ」と答えた。デイワーンは人口増加による食糧危機から逃れるための船ではなく、富裕層が税金逃れのために作った海上国家だった。

ハクアが処遇を尋ねると、PRRRは答えた。陸地の上で人々は朝に目覚め、夜眠る。パーティをすることは許されている。まだくすぶりながら燃え続けているカカシを見て、ハクアはいつか自分も砂漠へ行こうと決意した。

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内容に関するアピール

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