けんたいはうすのくらし

印刷

梗 概

けんたいはうすのくらし

■冒頭部
 おしっこをぶちまける夢ばっかりで、ここんとこ。あ、わたくし、今年女子大を卒業したばかりのボブ取りJソンと言いますー、よろしく。友達はボビーって呼ぶのが多いっす。で、えーと、おしっこの夢をYahoo!知恵袋で聞こうとしてんけど「おしっこ 夢」の時点で、「大金が手に入る」みたいな文字がいーっぱい。やっぱこれのことやったんかなー。やー実は遺産のことかなー思てて。結構あるかもなんすよ、遺産。でもまあ、わたくしん家のごたごたはね、ほんとドラマ、ドラマ。たぶん、渡る世間は鬼ばかりみたいなん書けるよ。ああ!その線もあったかー大金。あー、お兄ちゃんがですね、いっつもやらかすんすよ。「俺は勉強できないけど、生活力はあるんだ」っつってアホで。で、お兄ちゃん、虫とか嫌いだし。ねー?男としてどうかと思いません?虫嫌いって、ねえ。ありえんよ男として。笑。

■梗概
「5」
 滔々と語られる独白。語り手の名はボブ取りJソン(芸名)。フリースタイルなダンスが趣味のフリーター。20日くらいに、その月のカレンダーを破り捨ててしまうほどせっかちな23さい。
 男女5名で共同生活をしている場にいる。他の面々は、お笑い芸人や漫画家、正体の分からない不思議ちゃんなど。リアリティバラエティのようだとはしゃぐ。もうすぐまとまった額のお金が手に入ると確信している。無駄話の合間に、楽しく暮らそうZEといった提案を織り交ぜつつ、舞いを披露。楽しい。いまが最高!
 5名が集う広間には、床や壁に暗号のような数字が並ぶ。ボビーは数字が風景に見える。こんな日が続けばいいと思う。紙に好きな人の名前を書いて寝る。

「4」
 語り手が三時間寝太郎に。「絶望のクンニリングス社」に勤める会社員29さい。昨夜三時間しか寝ていないことを喧伝する彼に周囲の目は冷たい。昨日、女性陣の身体に無遠慮な視線を送りセクハラ発言をしたことが、皆に避けられる理由だろうか。「無視か。そうやってずっと人のことを雑に扱ってたら、絶対バチあたるからな。もうお前らのことは信じられない。俺が一人で謎を解く!」と、噛ませ犬のように息巻いて広間を出ていく寝太郎。残された3人は、誰も彼のことを追いかけない。
 寝太郎は情報端末を用いて、脳内彼女との念話に移行する。「あいつらどーせ俺抜きで乱交すんだろ?」「エロ動画の見すぎじゃないですか」「いや、XVIDEOSで見た訳じゃないって。閉鎖空間ですることがないとセックスする生き物なんだって。人は」「そんなことないですよ」
 寝太郎は、ふて寝することにした。

「3」
 語り手は海底人となる。大量発生した口内炎により口を開けるのもしんどい。口内炎は海底人にとって風土病みたいなものだが痛いものは痛い。だからあまり喋らない。
 昨日の朝にボブ取りJソン、今朝は三時間寝太郎が、建物の中から消えていた。3人だけの広間は静か。初日に読んだ壁の注意書きに目を通す。

ご協力ありがとうございます。これは調査です。外に出られたときに大金をお渡しします。
1.らくらくコース
→5日後に迎えが来て、外に出られます。
2.がんばりコース
→この家に張り巡らされた暗号を全て解くと、外に出られます。
※1日に1回、暗号を解こうとしなかった人の名前を書いて下の箱に入れて下さい。

けんたいはうす

 俺たち、結構えげつないことやってんなあ、と呟きながら冷蔵庫を開ける。昨日食べたラムネわらび餅は、海底人の郷土料理に見た目が似ていたが、味は天と地の差だった。一生食わんぞ、とあらためて決意する。初日から必死に暗号を解こうと行動する女と、その女性に寄り添う男を尻目に、そろそろ潮時かな、海底人だけに。と、ひとりごちる。

「2」
 語り手がバスコ茶釜に変わる。若手女芸人の茶釜は剛毛。ビション・フリーゼが大好き。「ダメなやつらが集まればどうにかなるファンタジー」系の物語が大嫌い。女は抒情、男はアクションみたいな区分はクソ、という信念から、初日から一貫してアクション担当を自認している。
 ここに来るまでの茶釜の生活は困窮していた。昼はオーディションやネタ見せが入るかもしれないからできる限り空ける必要があり、夜は合同稽古があることが多いので、バイトが定期的に入れられないからだ。たまに出る若手芸人合同ライブの客層は女子中高生中心で、茶釜はその客層にウケやすいネタをつくらないため、なかなか上のレベルの合同ライブに上がれない。マネージャーは1人で1年目の若手を百組くらい担当しており、茶釜のことは覚えているかどうかも怪しい。
 お金と名声が欲しかった。この4日間、必死に2人で暗号を解いてきた。今日も2人で暗号を解くことに取り組む。

「1」
 クイズ・夏になると開かれるものは? 正解は、プールではなくマインドだ。語り手は最後の一人、漫画家見習いの夜来羊に。バナナの天ぷらが大好き。
 初日にバスコ茶釜に協力を依頼されたとき「彼氏になったつもりでですか」と応じ、「いや、そんなつもりにならなくてもいいですけど」と言いつつ目をそらした茶釜を思い出す。かわいかった。尊敬するエロ漫画家のアドバイスを思い出す。「とにかく、ちんこを格好良く描くこと。それが一番大事。画面にパワーが出ますよ」。今の状況には関係なかった。

 自分たちがどうしてここに来たのか分からない。消えていった4人がどうなったのかも分からない。自分に明日が来るかも分からない。何も分からない。

文字数:2224

内容に関するアピール

「遊べ! 不合理なまでに!」ということで、不合理でもいいから好きなように遊んで書こうと目論見ました。

1.落語やピン芸人の長尺漫談が好きです。方言を交えて、グルーヴ感が出ていたら最高です。べしゃりがたどたどしく関東産まれ関東育ちの私には、現実世界での方言マシンガントークは無理ゲーなので、代わりに様々なタイプの一人称話者の主観による語り倒し読み物を書こうと思います。

2.聞く気がなくとも聞こえてきてしまう、喫茶店などで物理的に近くにいる人たちの会話が好きです。限られた情報から話者同士の関係性や個人情報を想像する楽しみ。情報が秘匿されているからこその面白さ。稀に詳しい話を聞いてみたくなるときがあります。でも面識のない人に話しかけるなんて無理ゲーなので、フィールドワークで得られた断片的な情報を元に残りの部分を補完するような物語を書こうと思います。

3.いわゆるデスゲーム系の作品が好きです。登場人物に己を重ねるだけでなく、生身の私が参加したらどう振る舞うか想像します。大体早い段階で想像上の私は死にます。現実でデスゲームに遭遇したら多くの人はクリアできないでしょう。諦める人も多いのではないでしょうか。私も諦めると思います。ちなみに私は巷で流行しているリアル脱出ゲーム未経験。一人で行ったら見知らぬ誰かとチームを組まねばならないなんて無理ゲーなので、代わりに一人で遊べる電源系ゲームや書物で楽しんで得た知識を随所に挟んだ(読者への問題の出題がある)実作を書こうと思います。

タイトルは「献体」と「倦怠」、「house」と「這う巣」を兼ねようとしています。

文字数:675

課題提出者一覧