梗 概
ジョン=バースはBМD
私は未だ私未満だ。
その宇宙船は光速を遥かに超えて、一見空間に拘束されているかのような振る舞いで惑星シードを目指している。長い時間が過ぎたような、あるいは巻き戻った時間に包まれるような。
リビング型コクピットの面々は、変顔コンバーターで操船している車いすの美少女パイロットと、その隣でヨガマットを敷きエクササイズに余念のない青年。中央部に据えられたバスタブの中では、上半身裸でジーンズだけ履いた初老のやせ細った男がブラシで体を洗っている。そのそばに大きな犬、時折はねてくる水しぶきに向かって、低く唸り声をあげている。
「すまんな、ジョン=バース。狭い宇宙船に閉じ込められているのもあとわずかだ」
男の口元には折れ曲がったマルボロ。
私は時空を超えて偏在する。
だが今ここにある私の存在が何より好ましい。
簡単に言うと、そこはハイジとおんじが住んでるような山の上の場所だ。天気も良くキラキラな風景のなだらかな道を上って来るのは、車いすの美少女クララララとそれを押す筋骨隆々青年アーデル。二人ともどんより暗めの感じで、日曜漫画劇場の中に紛れた東京グールのような違和感であった。
山小屋の窓からそれをじっと見つめているドン・ニージョ老、そのそばにたたずむ老犬。
「あれはきっと過去からの亡霊だ。そしてまたあの狂乱の日々がこの身に憑り付く」
老人のつぶやきを理解しているのかどうか、
その犬は一声楽しそうに吠えた。
「そうか、お前がいいのならまたあの傭兵暮らしに戻るのもいいか」
と、遠くを見る、その口元だらしなくこぼれる涎。
全てである神より、その子の方が楽しそうだ。
そして楽しいこそが、他の何よりも優先する。
立ち並ぶ超高層ビルの根っこの方の片隅に建つ雑居ビル、その屋上にはくたびれたプレハブ小屋が忘れられたように置かれていて、それでもこうして描写されることでもはや誰も忘れていない状況とはなる。
ドアが開き、年老いたバーニーズ・マウンテン・ドッグがよろよろと歩いてくる。そのおぼつかない足取りを止めたのはなぜかそれだけぽつんと置かれた豪勢な磁器製のバスタブのあたり。華奢な猫足に向かって自分の後ろ脚を上げると、長々と放尿する。そうしてしばらくあたりをクンクンやって、満足げに小屋の中に戻る。
初めまして、それが私だ。
文字数:953
内容に関するアピール
最近、ワイドスクリーン・バロックとかいうのを読んだので影響された。
あと、何かに対して影響を受けたりリスペクとしてたりというのを作品中でさらっとやるのがかっこ良さそうなので、それもやってみる。ドン・キホーテとハイジとジーンズやたばこのCМとガンダムと武田真治をとりあえず書いた。もっと増やしたい。
でも、ジョン=バースはまだ読んだことがない。
正確には『金曜日の本』の最初だけ。
文字数:186