隧道奇譚

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梗 概

隧道奇譚

建設中の高速道路トンネルのシールドマシンが異常停止した。大手ゼネコンの現場監督者であるナリミヤの前に、コンクリートで固められた空間と、直径1mほどのが現れる。「帝国陸軍戦略研究所」の札を見たナリミヤは、本社に連絡して工事中断を提案するが、本社は発破による工事計画を用意すると返答する。ナリミヤは石の中から波の音と女の子の歌声が聞こえることに気が付く。

3歳のソフィアは父に買ってもらった「マザーグース」のページをめくる。この帆船の船長である父が積荷について母と口論ばかりしていることがとてもつらい。ソフィアは自分の部屋の下からなにか不思議なメロディが聞こえることに気が付く。積荷であるエタノールの樽が並んだ船倉の奥に、麻の布に覆われた大きなが光っていた。「ロンドン橋おちた」を歌う石にソフィアは夢中になる。

本社と作業員たちとの間で板挟みになるナリミヤは、この不思議な石の正体を掴もうと、石の一部を大学時代の友人で地質学者であるシミズに送る。また、地元住民の話から、戦中の松代大本営と帝都を結ぶ隧道の計画と、そこで多くの徴用者が亡くなっていることを知る。シミズから送られてきた放射線年代測定の結果には、これが隕石であることと、放射線同位体がまったく増えていなかったことが記されていた。そこに、本社から明日にでも発破をするとの連絡が入る。

「歌う石」の隣で眠ってしまったソフィアは、父の怒鳴り声によって目を覚ます。中国系移民から買ったあの怪しい石について母サラが父を問い詰める。イタリア王家に献上する「未来が見える石」だと父は諭すが、そのとき船倉から轟音がして白い霧が噴出する。エタノールの引火を疑ったベンジャミンは急いで妻と娘を救命ボートに乗せ、石をもう一隻のボートに積もうとして海に転落する。父は、彼を追って海に入ったソフィアの手を引いて石とともにボートに乗せるが、ソフィアが気が付くと父も母も帆船もどこかへ消えていた。真っ赤な夕陽の下で、石からは「ロンドン橋落ちた」を歌う男性の声が聞こえる。それは英語ではなかったが、ソフィアは一緒にそれを歌う。

ついに発破の用意が整い、「ロンドン橋落ちた」の電子メロディが流れる。トンネル入口付近に退避していたナリミヤは、爆破とともにトンネル床面の崩落に巻き込まれる。旧軍の隧道は予想に反してトンネルの真下に沿って存在していた。多くの作業員が逃げ出す中、石のことが気になるナリミヤは隧道の奥へと進む。崩落で割れた石から光があふれ、時代も場所もバラバラな光景がナリミヤの前に映し出される。ナリミヤはこの石が時間を超越して様々なものを記録したり伝えたりする一種の装置ではないかと思う。最後に煙を上げる帆船が遠ざかっていく様子と、海に浮かぶボートの上で白人の小さな女の子がひとり歌っている光景が映し出される。

帆船には「メアリーセレスト号」と英語で書かれていた。

文字数:1199

内容に関するアピール

まったくつながりそうもないものが、話を追うごとにつながっていくことで
シーンを追う気持ちよさを読者に感じてもらえるような実作にすることが目標です。

文字数:72

課題提出者一覧