梗 概
ゼウス・マシン
ソクラテスは言った、「ゼウスは死んでいる」。そして続けて言った、「犯人はこの中にいる」。
詩人たちはギリシアの神々を我々人間と同じ愚かさで語る。しかし、神がそのような振舞いをするだろうか。まして詩人ごときが、どのようなものであろうと神々の真の姿を見たと確信に至るだろうか。否、今に伝わる神々の歴史はすべて虚構でしかないのだ。
C・オーギュスト・デュパンは本を閉じた。アレクサンドリア図書館に所蔵されていた、プラトンの『名探偵ソクラテス』は、火の中に消えたとされていた。しかし、いまデュパンの手元にはその原本があった。デュパンはソクラテスの間違いに気づいた。
文化祭の劇では担任の先生の趣味でホメーロスの『イーリアス』を演じることになった。そんなものに興味ないと言っても先生は聞いてくれなかった。準備を進めているとゼウス役の男の子が密室で殺された。死んだ男の子の首に『クトゥルーの呼び声』が突き刺さったのだ。クラスではゼウス役の男の子を殺したのは誰か、犯人探しが始まった。名探偵柳田がおずおずと手を挙げた。
しかしすべての推理は当たっていながら間違っていた。真実への扉は閉まっていること、それが答えだ。すべての答えが間違いになることで『イーリアス』のデータは完全に失われたことを確認したことでゼウス・マシンは『イーリアス』の新たな記録を始める。『イーリアス』はそもそも人間の争いのことではない、ゼウスとアカリア宇宙人との戦いの歴史のことであった。ゼウス・マシンはこの宇宙のすべてを記録する装置だ。ゼウス・マシンに記録されていることは宇宙に反映される。アカリア人はゼウス・マシンの記録への介入方法を見つけ出し、『イーリアス』の勝敗の記録を書き換えようとしていたのだ。アカリア人のハッキングによってゼウス・マシンは、『イーリアス』のデータを失った。ゼウス・マシンは地球という星になりアカリア人から身を隠してデータの修復を試みたのだ。地球上のすべての生命の活動はアカリア人のハッキングによってもたらされたウイルスを排除するためのものだった。ゼウス・マシンはウイルスの除去を完了したが、失われたデータは元に戻ることがなかった。そこで生み出されたのが高度な知性を持った人間であった。人間が神話を語るのはゼウス・マシンの失われたデータを復元するためだったのだ。ゼウス・マシンは地球に化けるのをやめて本来の姿へと戻っていく。それと同時にゼウスの動きを感知したアカリア人がゼウスに襲い掛かる。記録が傷つけられたことにより悪辣な姿として書かれてきたギリシアの神々は本当の輝きを取り戻し、アカリア人との決戦に出る。『イーリアス』がここに記録される。
文字数:1172
内容に関するアピール
それぞれの真実がかみ合わないことで真のゼウスを召喚する、という話です。プラトン『国家』にソクラテスがギリシアの神々を劣悪な姿で描くことを非難している場面があったのでそこから着想しました。
ミステリーの推理合戦は、前の推理を新しい事実や見落とされた事実によってひっくり返すので、つなぎ目という課題に合うと考えたのですが、肝心のトリックの部分については何も思いついておらず、まとめることはできていません。
文字数:199