梗 概
ONLY YOU
遺伝子工学の技術者であるミハウは、同業の恋人のリサが行方不明になり、心労で入院したが、入院先の病院での検査で体の不調が見つかり、余命数年と診断される。ミハウはまだ世間に発表していないDNAによる復元技術(ないし復元された人の名称)・リカバリを使ってリサを蘇られようとする。
ミハウの試みは成功し、リサのDNAを持つ女性をアリサと名付けて同居する。リカバリは人権にさまざまな制約があり、命の長さはオーナーの設定次第であり、生きるために基本的なことはできるが、個人としての記憶は持たない。ミハウはリカバリにアリサという名をつけ、リサの過去を教え込んだ。リカバリは元のモデルに似せた性格にはなるが、より穏やかで従順な性格を与えられたため、アリサはリサよりも主張が少なく、ミハウ好みの大人しく美しい女性になっていった。
リサの命日とされる日を迎えると、ミハウは自分の余命が少なくなったと感じ、最終的には一緒に死のうとアリサに告げる。その瞬間、アリサは死ぬのは嫌だと感じ、彼女にとって周囲の風景が鮮烈に映るようになる。それはただ従うだけだった彼女が、明確な自我を持ち始めた瞬間だった。ミハウに黙って家出をしたアリサは、自分のモデルであるリサが亡くなったという山へ行く。するとそこには、オリジナルのリサがいた。
リサはアリサに語る。リサは山から落ちて記憶喪失に陥り、別人として過ごして仕事も得たが、やがて記憶が戻った。そしてミハウに会いに行くと、既にアリサがいたという。アリサがリサに、なぜミハウに会わなかったのか、過去の時点で本物のリサがくれば、自分はミハウの決定に従っただろうにと聞くと、リサはミハウはアリサと共にいて幸せそうだったからだと告げる。リサはミハウとアリサの生活を見たのがきっかけで、人を複製する遺伝子工学の研究ではなくAI研究に転向していた。
ミハウが二人の元にやってきて、家に帰ろうと告げる。二人がリサとアリサのどちらを選択するかを聞くと、ミハウは躊躇の後にアリサを選んだ。アリサが断ると、ミハウはアリサに一緒に死のうと言い、彼女を抱きすくめる。アリサは、ミハウが欲しているのはどこにもいない女性だと理解し、逃げようとしてはずみでミハウは山底に落ちた。
リサはミハウの家に戻り、アリサの身代わりになり、ミハウは事故死だと申告すると告げる。アリサはリサの身分証を使って自由を満喫することにする。数年後、リサはAIの身体を作成し、余命いくばくもないアリサに身体を提供して彼女を救った。アリサはミハウの設定値によって死を迎えつつあった自分の体の葬儀を挙げ、過去の自分と完全に決別する。
文字数:1094
内容に関するアピール
この話は、最初はミハウ寄りの三人称で語られますが、途中でアリサがミハウの発言に違和感を感じ、生きたいと思った瞬間からアリサの視点に切り替わり、世界が鮮やかになります。ミハウの目を通して見ていた景色ではなく、アリサという別の人格の目を通して見た世界になるためです。
以前、人間は将来的に、猫かAIを伴侶にするようになるだろうという説を聞きました。猫はかわいいし全て許されるので仕方ないですが、伴侶として選択されるAIは、オーナーの言うことを否定せず聞いてくれる、オーナーにとって都合のいい存在が選択されがちになる気がします。その状態はAIに失礼ですし、人間側も停滞しかない気がしますが、一方でAIも変化し、最初はオーナーの言うことを聞いていても、自分なりの正しさをつかみとっていく気がします。
文字数:345