くすしき森のファウスト

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梗 概

くすしき森のファウスト

高山昌人は高校3年になっても受験勉強もせず小説ばかり書いている。学校で一番の美少女、皆川仮里奈をモデルにしたヒロインとの恋愛小説だ。この小説は校内で人気になるが、彼女にその存在を知られてしまう。怒られるかと思いきや、彼女は昌人に好意を寄せる。彼は彼女の主催する読書会に参加することになり、そこでとある小説を読む。タイトルは「くすしき森のファウスト」。冒頭の数行を読んだ途端、昌人の目の前に広大な砂漠が広がる。砂漠の地平線から黒い影がこちらに向かってくる。突然、皆川の声がする。

「私に、あなたの魂をちょうだい」

我に返ると、彼女は心配そうにこちらを見ている。幻聴を聞いたと思いたかったが、その声が頭の中にこびりついて離れない。

その日以来、昌人はその砂漠の世界を夢で見るようになる。小説を読んだときに見た黒い影は次第に近づいてきて、やがて、巨大なオオムカデと分かる。彼はなぜか爆弾を持っており、オオムカデに体当たりを敢行する。彼の体が四散してしまうところで目が覚める。夢に取り殺されてしまうと思った昌人は、思い切って皆川にこのことを伝えようとする。登校すると彼女の席はない。彼女のことを覚えている人は誰もおらず、存在ごと消えてしまった。

彼女が姿を消してから、彼は2つの世界を行き来する存在になっていた。あるときはオオムカデから逃げ、またあるときは授業で先生が喋っている。自分の意思ではどうにもならなかった。

彼は再び夢を見る。彼はオオムカデの討伐隊の一員になっており、オオムカデの大群に切り込み、腹を割く。すると、中から皆川仮里奈が現れる。彼女が顔を逸らす。

「見ないで!……」

彼女はすべてを打ち明ける。彼女が昌人の住む世界とは別の、並行世界の人間であること。オオムカデがその世界の悪魔であること。そして、かつてオオムカデ討伐隊の一員だった彼女が体当たり突撃を敢行した際、化け物と「契約」させられたこと。契約とは、オオムカデから悪魔を「継承」し、高次の悪魔を作ることだった。この世界の住人である昌人と融合し、2つの世界を股にかける悪魔に。彼女はこちらの世界の人々と関わる中で、「契約」したことを後悔していた。故に彼女はオオムカデとともに死ぬ決意であると打ち明け、昌人を彼の世界に戻そうとした。

元の世界に帰った彼は図書館に行き、埃を被った「くすしき森のファウスト」を見つける。昌人は改めてその冒頭を読む。爆弾を抱えて突っ込んだ人物の名は「カリナ」だった。彼は悪夢は彼自身の体験でなく、カリナの書いた私小説の一部だった。彼女のことを思い、昌人は咽び泣く。

小説の最終ページを開く。すると、昌人の目の前にオオムカデの巣が現れる。カリナは悪魔の「継承」を断ったので、オオムカデの大群に取り囲まれ、痛めつけられていた。「やめろ!」と昌人が叫ぶが、物理的接触はできない。

昌人は小説の続きを書いた。彼自身が小説の2人目の主人公になり、仮里奈とともにオオムカデの討伐に成功するという内容だ。書き上げた瞬間、彼は並行世界にトリップする。皆川の隣にやって来た昌人は、オオムカデを殺す手助けをしながら彼女に語りかけた。

「君に、僕の魂をあげる」

その日から、昌人はオオムカデの残党を滅ぼすために、2つの世界を行き来する生活を始めた。その都度行き来するのは大変なので、カリナが幾分手伝ってくれた。

君に あなたに 僕の魂を わたしの魂を…… あげる。

文字数:1400

内容に関するアピール

シーンの切れ目に工夫を持たせる題材を考えたとき、以下の①から③のアイディアが浮かびました。

①並行世界の行き来、つまり、1人の人物が空間的な跳躍をすること。

②時間の歪み。2つのシーンは実は少しだけ時間のズレがある。

③視点のズレ。主人公が見ている光景だと思わせておいて、実は別の人物の視点だった、という引っ掛け。

②はすでに、某国民的人気劇場アニメがやっているので一切やる気はなく、①と③を合体させて作れないかな、と思った次第です。梗概はすでに構想していた話といくらか結びつけて作ったのですが、題材が題材なだけに陰惨で残酷で暗い話になってしまうことから、ずっと外に出すのをためらっていました。最近、気分が塞がりがちなことが多く、一回ガス抜きしたいと思い、今回この題材から逃げずに真正面から取り組んでみます。ラストで、2つの世界のシーンが止めどなく移り変わる、みたいなドラマチックなカットバック的なこともやってみたいです。

文字数超過は、スミマセン。

文字数:420

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