梗 概
何度死んでも君を救うためのSF
もう数えることをやめた僕は、今日が何度目の今日かわからない。いつしか、死の因果からは逃れられぬと知った僕は、発狂せずこうしてまた朝目が覚めることに感謝し、家を出たところで大型トラックに追われている。あまりにも早い今日の死を悟り仰いだ天には光の束が降り注ぐ。また、どこかに大きな流れ星が落下したんだろうな。八雲のおかげで、世界はもう滅茶苦茶だ。連日の物理法則を無視した異常気象、創作物でしか見ないような不可解な出来事、繰り返す毎日と死亡フラグ。背後に迫る死の感覚に、俺はやれやれと溜息をつく。
※
目が覚めると、またベッドの上。
トーストを焼こうと廊下に立つと、床下収納のための板版が少し開いていて、そこから地下への梯子が降りている。
そこには所狭しと並んでいる「残機」と書かれたカプセルに、培養されている数多の僕。
ははぁ。
つまりこれはスペアを消費していただけで、毎日を繰り返していたわけではなかったのだな?
この事実に発狂しそうだぜ。死ぬ度に意識だけが新しい身体に転送されているんだ。一体どういう原理なんだ?
足元には「世界の終わりを目指せ」と記された便箋。
俺は八雲を誘って、世界の終わりを目指すことにする。
世界が存続するために必要な渾沌を世界と分け合って生きている八雲は、身体の成長に伴い消費する混沌量が増えていく。混沌が供給されなくなった世界は壊れてしまう。薬物投与と特殊技術でコーティングされた病室によって実質的な隔離状態にある八雲は、今や死を待つばかり。
療養所に着く頃にはもう正午をとうに回っていて、八雲のいる一番角の病室は一段と暑い。
ベッドに横たわる八雲は随分と痩せ細って見えた。もうすぐ八雲の命は尽き果てて、世界に平穏が訪れる。
一人で立つ気力も残っていない八雲を車椅子に乗せて連れ出す。八雲が救うはずの世界を見に行くために。
療養所のある小高い山を真直ぐ下っていくと、やがて道は海とぶつかり海に沈んでいく。
八雲に世界の様子を伝える。ついでに俺の近況も。スペアがたくさんいたこと、死ぬ度に意識だけが転送されているらしいこと、ここにいる俺が俺だとすると、あの時死んだ俺は俺なのだろうか? もしくは、あの時しんだ俺が俺なのであれば、今いる俺は俺なのだろうか? よくわからないこと。
「器に込められた意識の方に、本質が隠されてることもあるのよ」
八雲は笑っている。
海岸線をひたすら歩き灯台までやってきた僕たちは、いよいよ行き場がなくなる。紫に暮れた夜の闇に紛れて、隕石が落下していく。世界の終わりが近い。
日が海に沈む様を眺めていると、灯台に明かりが灯り、俺たちを歓迎するかのように扉が開く。
中に入ると、僕たちの器を置き去りにしたまま灯台は火を吹き、宙へと上っていく。
やがて灯台は大気圏に突入し、七色の光を放ちながら宙に出ると、そのまま再生されていく地球を映しながら世界の終わりへと向かっていく。
文字数:1190
内容に関するアピール
過去へのタイムリープで跳躍した過去は、過去のように見えている未来である という着想から、
同じ日をループしていると思っていたら、同じように見えているだけで時間は進んでいた という話を書こうと思いました。
ループもいい加減食傷気味なので、そこからもう一歩踏み出たものができたらいいなと。
SFを書くということだけでも苦戦していたのに、そこに技術面のお題がプラスされた今回の課題はより一層難しく、これは梗概かけないかも…と思っていたことをここに懺悔します。
文字数:223