梗 概
声が聞こえる
曽祖母は、アイに昔話を語る。
地元の人は知らないふりをしている話。
ご先祖のキクさんは、獣に化かされたことがある。光に包まれ人影とともに雪山に入っていなくなった。数日後に、突然帰ってきて、キクさんは普通に過ごしていた。けれど、ある時、事故が起きて家族が死ぬ。巻き込まれたはずのキクさんは死なずに生き残った。
キクさんは、気が変になる。死んだ家族が海の水面に見える、待っていると言って、海に飛び込んでいなくなってしまったそうだ。
アイは、キクさんの話が好きだった。曽祖母の作ったカニクリームコロッケを食べながら、その話を聞いたのだった。
ある日、アイは小学校から家に帰る途中、突然強烈な閃光に照らされる。細長い黒い筋が、アイを取り囲む。気づいたアイは暗くなった学校にひとり立っていた。
数日間アイを探していた家族は安堵し、アイは落ち着いて暮らせるようにと先祖代々の土地を去ることにした。アイは死んだ曽祖母から聞いた話を口にしようとするが、父親に曽祖母の話を真に受けるなと言われる。のちに地元の人々が、ウワサしていたことを友人から知ることとなる。
高校生のアイは、同級生のケーゴに小学校の頃のことを話す。ネットロア研究を志すケーゴは、ベタに宇宙人に手術でもされたのではと茶化した。ケーゴに見せられたネット上にある話と自分の体験が似ている点にアイは驚く。
家族と旅行に出かけたアイは、交通事故に巻き込まれ、血まみれで絶命した家族の中で、ただひとり生き残る。生き残ったアイは、自分が曽祖母の語る話のように、死ねなくなってしまったのではとケーゴに話す。
ケーゴは、アイが家族を失って間もないから、結びつけているだけで考えすぎだと告げる。しかし、アイとケーゴととも交通事故に巻き込まれ、ケーゴを助けたアイが生き返った時、アイは光が見えたと言い出し始める。
アイにこわれるままに、ケーゴは命を絶つ方法を模索する。しかし、試す方法は、アイが死なないことを証明するだけだった。ケーゴは、アイのためにカニクリームコロッケを作る。けれどもアイは受け入れず、あげた油で自死しようとする。
アイは、曽祖母の話を思い出し、最後の手段として海へと身を投げ出そうとする。水面に映る家族の姿と、曽祖母、そして自分によく似た一人の女性を目にする。青白い手が海から浮かび上がり、アイを招く。
後ろに控えたケーゴが、アイを重石をつけた縄で縛り上げ、海へと落とす。
海辺でゴミを拾う男の子は、ここ一週間、ある男が気になっていた。男は海に近づくことができずに、海を眺めていた。男の子は、ゴミを拾いながらも、男の前を通るたびに会釈した。
久しぶりに晴れた海を眺める、いつもと様子の違う男に、男の子は声をかけた。男は、ずっとある音を聞いていたのだが、今日は聞こえないと言った。けど、聞こえるのをまだ待っているんだと言った男は、優しげに微笑んで、海を眺めた。
文字数:1191
内容に関するアピール
シーンの切れ目で、惹きつけられる作品といえば、死への伏線でした。死への前振りから、最後の死への可能性の選択を劇的に描いてみたいと思います。
死と対局にある、幸福なものとして、カニクリームコロッケを挙げておきました。カニクリームコロッケってどうしてあんなに美味しいのだろうかと思います。
また、狐に化かされた話が実は宇宙人のような別の存在が、人を化かしていたのだと考えています。
狐の生息地と化かされた話の分布は一致していますが、宇宙人的な存在もまたどこかにいるんではという考えです。いたらいいなぁという希望も含めてます。
影響を受けたものとして、
夏目漱石の「こころ」、スタニスワフ・レムの「ソラリス」、高山羽根子の「うどん きつねつきの」があります。
文字数:320