マンモスは二度絶滅する

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梗 概

マンモスは二度絶滅する

降雪を神の言葉とみなし、積雪を神の園の顕現としてきた雪族にはひとつの言い伝えがあった。
〈産まれたての赤ん坊がくしゃみをすると雪が降る〉

母親のお腹から取り出されたばかりのミナミは小さなくしゃみをした。ミナミの誕生に賑わう親族の中にいてそのくしゃみを聞いたのはひいおばあちゃん一人だった。同じ頃、草原で一頭のマンモスも子を産んでいた。その子マンモスもまたくしゃみをしたのである。その夜から雪族の大地に雪が降り続いた。

古来、雪族とマンモスは同じ草原に暮らすよき友であった。先人の言葉によるとこの友ははるか以前の人間が人為的に生み出したクローンマンモスの末裔だという。しかし雪族はクローンが何なのか分からない。友は友であるだけでよかった。

12年が経ったある日、状況が一変する。
長年の積雪の影響で餌のキンポウゲを食むことができずマンモスが肉食化し、人を襲うようになったのだ。マンモスと雪族の戦いが始まり、雪族は白い大地をマンモスの血で染め続けた。

3年後のある夜、一頭のマンモスがミナミの家にやってきた。父が襲いかかろうとした時、ミナミが「お姉ちゃんだ」と言って止めた。ミナミは物心ついた頃から「お姉ちゃんはどこ?」と尋ねるのが口癖だった。マンモスは口に一輪のキンポウゲをくわえている。そしてマンモスは踵を返し、ミナミを何度も振り返りつつ立ち去った。その夜ミナミは家からいなくなった。
ミナミはその後マンモスと旅をした。マンモスの背に乗り、人間では踏破できない道を行き、雪の大地を抜けると、あるキンポウゲの園でマンモスに身を捧げ、食われた。

それから1年10ヶ月が経った。
雪はまだ降り続く。雪族はマンモスをほぼ全滅させていた。
ある日あのマンモスが家にやってきた。しかも妊娠している。ミナミの姿はない。父がマンモスを殺しかけた時、ひいおばあちゃんが制した。「ミナミの声が聞こえる」。その夜マンモスは子(雌)を産み落として死んだ。子マンモスはくしゃみをした。

時を同じくして村の男たちが最後の一頭(雄)と戦っていた。父は戦さ場に走り、男たちに戦いを止めるよう説得した。「雪はやむ。マンモスは再び友になる」と。しかし男たちは愚かだった。父の言葉に耳を貸さず最後のマンモスを殺した。

翌日、雪がやんだ。
子マンモスはミナミの家族の手で守られた。肉と草、餌を選ばせたが草を食んだ。子マンモスはすくすく育ち、草原も数ヶ月かけて復活した。子マンモスが糞をしたところに本来黄色いはずのキンポウゲが白い花びらを咲かせた。
「ミナミが雪の花を咲かせているのよ」
ひいおばあちゃんが言った。

それから50年の歳月が流れた。
大人になったマンモスは死の時を迎えようとしている。草原には白いキンポウゲが咲き誇っている。息を引き取ってしばらくすると、40年ぶりに雪が降った。白いキンポウゲの絨毯と空からの雪に包まれてマンモスは再び地上からその姿を消した。

文字数:1198

内容に関するアピール

男は愚かなのではないでしょうか…
男の愚かさを動的に表現しようと思っていますが、
この物語の全体を包み込むのは、女性性なのだろうと思います。

文字数:68

課題提出者一覧