梗 概
コキュートスの玉座
青年レサクは王座を降り、門の外へ出る。吹雪の中を進み、今までの選択を悔やみながら、妹の死体の前に崩れ落ちる。落ちていた拳銃を拾い自殺しようとするが、トリガーが凍り付いており死ねず、レサクはただ慟哭する。吹雪に世界が飲まれていく。
◆
多くの文明が死に絶えた氷河期、九機の超高層セントラルヒーター氷炎九號を有するシェルター都市国家が舞台。
主人公レサクは「妹のゾーヤを生贄に差し出せ」という王の命令に反し、詰め寄る。生贄を止める代わりに、王から提案されたのは、この王国を継ぎ次代の国王となることだった。レサクはその条件を飲み王権を継ぐ。
◆
王位継承は、先代国王であるカタリナ・ユビキタスの代わりに都市に電子接続することを指す。レサクは王の血からマイクロマシンを摂取し、都市の眼王塔に接続し、フォグコンピューティングによって世界と一つになる。
全てに接続されたレサクは人間(定命資産)の維持コストや「都市の供給エネルギーなどは有限であり、現在の人口97名だと不足すること」を理解する。
妹を口実にすれば、一番有用性の低いレサクを楽に引きずり出せる確率が高かった。先王は最後に何かを言い残すと拳銃で自殺する。結果的に一人減り、緊急的なリソース不足は回避される。
◆
レサク王の目の前に、概人AIのサーモピレが現れる。サーモピレのチュートリアルで王の機能、都市管理、副脳(記録貯蔵庫)の使い方などを知る。王としての責務の中で、幾度となく命の選択を迫られ、何度か妹を見捨てることをサーモピレに勧められる。
◆
探索隊のデラワーカメラのレポートで数年後にマイナス150度になると知る。生残りのためにレサクは副脳を探る。その際に歴任の王達の記憶や感情が流入し、同化していく。精神的に病む度、偉大なる激励機から薬と激励の言葉が投与され、正気に戻る。犠牲を出さない方法はないと知る。
◆
レサク王はそれでもすべての救済に固執し、世界を停止したまま研究に耽る。地球の地軸にタービンをぶったてて発電する狂気にとりつかれる。サーモピレにあなたがすべきは王であって研究者ではないとたしなめられる。責任を取るのが人の仕事だと言われ、レサク王は最後の決断を下す。
◆
大勢死ぬが最終的に妹と数人の仲間が生き残る。皆悲しみながらも王に感謝の言葉を贈る。レサク王は前任の王たちとの意識同化から、この結末に納得せず、妹の顔を見ながらも、できることならもう一度この世界をやり直したいとサーモピレへと告げる。
サーモピレはその言葉に喜ぶ。無限の猿定理の如く、最高の結末までやりましょうと告げる。
◆
レサクは王位継承したその瞬間に戻る。目の前に前王がいるのが見える。最後の言葉を残し拳銃で自殺する。
「救いなきコキュートスに、救いをあらしめよ」と、今度ははっきりと聞こえる。
レサクは悲痛に満ちた前任の王たちの幻影を見て絶叫する。
文字数:1198
内容に関するアピール
Civ5とかLobotomy CorporationとかFrostpunkとかTropicoとか世にあまたあるシュミレーションゲームが私はとにかく大好きです。SLGをやっている時に感じるまるで高次元の存在になったかのような全能感や、絶えることなく続く厳しい選択に脳が削られていく感覚、時に道義にもとる行為で人々を救ったり、合理性の狂気とも思える世界を構築し可哀想な住民たちをそれに付き合わせるetc――そういった演算上の狂気が特に溜まらなく好きなのです。
本作はそんなSLGをモチーフとしつつも「ロコのバシリスク・水槽の脳・量子自殺・臓器くじ・フェルミのパラドックス・無限の猿定理」などの思考実験と平沢進的擬似科学で味付けしたいと思ってます。
お題の方ですが、シーンの切れ目を挟むごとに、提供される情報が増え、それによって見える世界が変わり、信じるべき理念が歪み、そして何より主人公が壊れます。
文字数:394
コキュートスの玉座
文字数:0