梗 概
嘆きのメソン
子どもの家「エレメンタリーパル」に、メソン警部がやってきた。
盗難事件が多数発生している。その手口から同一犯の犯行、まれにちらりと見えるその影から犯人は少年ではないかと疑われた。そして、子どもの家の子ども又は退所者が関係しているという噂があった。
子どもの家を主催する陽子は、メソン警部の幼なじみ。利発で頭もよい陽子に小さい頃から何かと助けられた。身寄りのない子どもたちを助ける陽子を見て、いつしかメソンは陽子に思いを寄せるようになっていた。
陽子はインターフォン越しにメソンの訪問を喜ぶ。しかし、子どもの家関係者が犯人の可能性があると口にするメソンに、陽子は手のひらを返すように冷たくあたった。メソンも子どもの家が盗難事件に関連していると考えたくはない。メソンは念のため捜査させてほしいと懇願する。陽子はしぶしぶ承知する。
玄関を上がると、そこには陽子とメソンが立っていた。メソンは驚く。部屋の中にいるメソンに偽物だというが、反対に陽子には警察に通報されたくなければ、さっさと立ち去るように、と言われる。しかし、このメソンと陽子は、子ども(クォーク)たちが作り上げた偽物であった。メソンはそれを見抜いて偽物たちを解体し、捜査を続ける。
廊下に出ようとすると、目にもとまらぬ勢いで子どもたちが走り回り、妨害する。あまりのスピードにそれぞれの顔かたちを判別するのも難しい。廊下を通らないと中に入ることはできない。メソンは部屋の中を見回し、一人の太った子ども(ヒッグス)を見つける。そのまま廊下に連れ出し、走り回る子どもたちの中に放り投げる。ヒッグスはからみつくように子どもたちにまとわりつき、あっという間に走行スピードが落ちた。同じスピードで走り続けているのは光子だけ。悠々と廊下を歩いて、奥に進むメソン。後ろでは、ヒッグスに避難の嵐が降り注いでいる。
子どもたちのさらなる抵抗にあいながらも、メソンは家中をくまなく探したが、犯人の手掛かりはない。子どもたちに疑いをかけたメソンを陽子は非難する。メソンは肩を落として子どもの家を後にする。
その時、緊急ブラックホール衝突速報が出た。震央は近い。認識する間もなく、重力波に飲まれるメソン。伸び縮みする世界にもまれながら、メソンは見る。楽しげに重力波に乗るグラビトンの影を。グラビトンこそ、メソンの探していた犯人に違いない。しかし、なすすべもなく波に翻弄されるメソン。
重力波の去ったあと、子どもたちには素敵な贈り物が届けられていた。誰にも認識されることなく、ただ存在するだけの子どもたちの心を、グラビトンはこうやって時折癒してくれる、と陽子はメソンに言う。
そう語る陽子の左手には、きれいな指輪が光っていた。それは、まさしくメソンから盗まれたもので、そして、いつかは陽子に手渡したいと思っていた、給料三ヵ月分のエンゲージリングであった。
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内容に関するアピール
小さいと言えば、素粒子ですが、実のところ、全くなじみがなく、何度聞いても粒子の名称さえ頭に残りません。
お題の「小さな世界」には、素粒子は格好の題材だと思われ、私自身の勉強も兼ねて、あえて選んでみました。
「はたらく細胞」のように、素粒子を擬人化して特徴をつかめるように書きたいと思います。
ちなみに、梗概に記載のメソン(中間子)はクォークひとつと反クォークひとつ、陽子はクォーク×3で構成されています。ということで、偽物のメソンと陽子は、計5個のクォークと1個の反クォークです。
専門的な科学知識を、誰にでもわかりやすく提示し、興味を持ってもらうきっかけにできるのがSFの存在意義(と言ったら大袈裟?)と考えています。その一翼を担えるような実作をめざします。
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