わかよたれそ帝王学最終講義

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梗 概

わかよたれそ帝王学最終講義

我は帝王になるために,帝王高等学校で帝王学を学んでいる。我は16歳である。この高校には我の影武者となるべき者たちが入学する。入学希望者は,そして在校生も,自分たちは帝王になるために帝王学を学んでいると思い込んでいる。彼らは我の影武者となることは知らされていない。

我は男性である。だがここは男子校ではない。共学だ。男子だけでは男性らしさ,帝王らしさを維持・向上できない。女子もいる。女子たちの存在によって我は,我々は自らの男らしさ,帝王らしさを意識することができる。彼女らは,将来の妃候補でもある。女子たちは自分たちが妃候補であり,男子たちが帝王候補者であると知らされている。

帝王高校は,我,帝王と影武者たち(そして将来の妃候補者たち)のための高校である。したがって皆,同じ容姿をしている。全国各地から帝王と妃に似た容姿の者が集められる。したがって,一斉入学ではなく,スカウトされて転入してくるケースがほとんどだ。

転入生は事前に説明を受けていても教室に入ると必ず驚く。席についている半分が自分と同じ姿をした人間ばかりだからだ。そして安堵する。これからはこのルックスのせいで面倒な人間関係に巻き込まれなくて済むのだと。

我々は入学時に今までの名前を剥奪される。入学後に識別のために学籍と新しい名前として「いろは順」に漢字・仮名が一人に1文字ずつ割り振られる。男子には漢字で以呂波耳本へ止…,女子たちには平仮名でいろはにほへと…と47文字(人)が割り振られる。したがって,この高校には47×2=94人の生徒がいることになる。

入学後の名前を呼ぶ時に男子と女子の音が同じになるため,男子の名前の後には「れ」がつく。これそれあれの「れ」だ。女子の名前の後には「ん」がつく。我の名前は「和」で,後ろに「れ」がついて「われ」だ。ニックネームがわりに「我」を名乗っている。我の隣の席には「わ」が座っている。わはそのまま「わん」と呼ばれている。学籍順に席が決まり,クラスが分かれている。

我は帝王になるべき人間だ。だから他人を憐れんだりはしない。しかし,どうしても,我だけが帝王になれ,その他のクラスメートは影武者にしかなれないこと(そして彼らがそのことを知らされていないこと)を思うと,複雑な気持ちになる。

隣の教室からミレー(美れ)が国語のテキストを朗読している声が聞こえてくる。彼が最も美しい。その声も容姿も所作も。我が帝王にり,大勢の前に出る機会があれば,彼を影武者に立てよう。容姿は似ていても47人,妃候補を入れれば94人それぞれに個性長所がある。94人体制で育まれる帝王が生まれるこの国は将来も安泰だろう。

将来というより今この時間が我にとって心地いい。この時間が永遠に続けばいいが,帝王学には終わりが来る。

今日は帝王学の最終講義の日だ。生徒たちは大講義室に集められ,この学校の真の目的が告げられる。我は,他の生徒が影武者になるに足る帝王候補になれているだろうか。勉学,体育,芸術すべてにおいて,決して一番ではないが(例えば美しさはミレーには敵わない),優れた成績を修めている。きっと大丈夫だ。

「あなたがたは帝王にはなれません」

最終講義で真実が告げられた。我は周囲を見渡した。彼らもまた周囲を見回している。皆はまだ状況を理解していないように我には見えた。

「ここにいる人間は例外なく,『まだ』誰も帝王にはなれません。これまでは影武者養成課程に過ぎませんから」

我はようやく理解した。我も影武者になるべく帝王学を学んでいるに過ぎなかった。

「転入生を紹介します」

大講義室に95人目の生徒が入ってきた。その生徒は「ん」と名乗り,黒板に「无」と書いた。呼びにくいだろうからムーと呼んでください,とその生徒は言った。

「この95人の中から帝王を1人だけ選出しなさい。帝王は男子でも女子でも構いません。立候補でも推薦でも試合や勝負でもどのような方法で決めても構いません。誰も異議を申し立てる者がいなくなった時に提案されている候補者が帝王になります。帝王が決まった時に帝王学の最終講義が終わります」

多くの者が帝王を辞退した。自分が影武者や妃候補となることがわかっていたようだった。まだ十数名が意見を表明していない。我はどうすべきか。この中の一人が帝王になり,我が影武者になるのも悪くない気がした。今までの学校生活は楽しかった。我が影武者になっても同じことが続くだけだ。

「わん」が我の手を握った。私にはあなたが考えていることがなんとなくわかる。あなたが辞退しても同じ生活が続くとは限らない。ムーがいるから。今日初めて会ったムーが帝王になったら今後の生活は予測がつかなくなる。もしこれまでの生活を守りたければムーだけは帝王にしてはいけない。

その通りだと我は思った。我はムーが異議申し立てをせずに,自分を含めてムー以外の誰かを帝王に選出しなければならない。

文字数:2011

内容に関するアピール

本当の双子でなくても(遺伝情報が異なっていても),容姿がそっくりであれば,性格の一部が似る,という記事(論文)を読んで「そっくりさんをたくさん集めたらどうなるかな」と着想を得ました。

小さな世界として,家族や学校,職場が自分にとって身近なテーマに感じました。家族や職場はまだ自分にはテーマにしにくいので学校を選びました。

文字数:159

課題提出者一覧