お留守番創生記

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梗 概

お留守番創生記

とちのきプラザマンションのE棟、1205号室。古びた分譲マンションの、この鍵のかかっていない無人の空き室は、隣の1204号室に住む、銀河ぎんがくん(5)の格好の遊び場だった。留守番中に家を抜け出しては、鍵のかかっていないこの秘密基地でひとり遊びをするのが銀河くんの日課だ。

おマセな銀河くんのマイブームは「宇宙づくり」。3LDKの部屋全体を宇宙に見たて、紙粘土で作った星々を各部屋に並べ、創造主を気取るのだ。

ある日、銀河くんは、紙粘土で作り置いてあった星々が、まるで本物の惑星のミニチュアのような姿で宙に浮かび、自転・公転しているのを発見する。

どうやら、この部屋では銀河くんの想像したものが、想像のままに動き出すようだった。「星になれ」と念じながらシャボン玉を吹けば、そのひとつひとつが新たな星になり、「とんでけ」と念じながらロケットの落書きをすれば、小さな模型のようなロケットが生まれ、ミニチュアの星々の間を飛び交った。銀河くんは、ますます宇宙づくりに没頭する。

いっぽうその頃。地球から数テラパーセク離れた宇宙の片隅で、モニターに映した銀河くんの様子を見ながら「とうとう『神』の姿を補足した」と喜ぶソラリ星人たちの姿があった。ソラリ星人たちによれば「神」とは、一定確率で宇宙の知的生命体に発現する「特定の願いを叶えるチカラ」である。たいてい本人も気付かないまま発現し、短くて数分、長くて数年の間持続する。今まさに銀河くんにそのチカラが発現しているのだという。

銀河くんが「宇宙をつくりたい」と願いながら3LDKの部屋に生み出したプチ宇宙は、未来の宇宙の設計図になるらしい。3LDKの部屋に、銀河くんは未来の宇宙の青写真を描いていった。彼の思い描く宇宙は平和そのもので、ソラリ星人たちは、優しき創造神の誕生を祝う。

ところが、銀河くんの弟である大宙だいとくん(4)にまで「神」のチカラが発現すると、事態は急変。大宙くんは宇宙創造の方向性をめぐり兄とケンカをしては、破壊神のごとく宇宙に混沌をもたらした。

実は「自分の宇宙を作りてえ」などという荒唐無稽な願いを持つ人物に「神」が発現することは、ビッグバン以来起きていない。それが2人同時に発現など前代未聞だ。停滞していた宇宙創造を再び進めるチャンスを、みすみす逃すわけにはいかない。宇宙の進歩を志すソラリ星人は、ぬいぐるみの姿をとってふたりに干渉し、ケンカの仲裁に奔走する。

兄弟が仲直りしたのもつかの間、長らく空き室だった1205号室に入居者がくることが発覚する。そもそも「宇宙を作りたい≒この部屋でリアルなおままごとをしたい」という願いのために発現していたチカラは1205号室でしか行使できない。しかも間の悪いことに、ふたりの宇宙の設計に決定的なミスがあり、このままでは早々に宇宙全体が消滅してしまうことが分かる。ソラリ星人は、入居者が引っ越してくるまでに、このミスを修正しようとするが、兄弟は既に「宇宙づくり」に飽き始めていた。

ソラリ星人は「入院中のふたりの母親が帰って来たときに、つくった宇宙を見せて喜ばせてあげよう!」などと、母親を喜ばせることをエサに宇宙作りを再開させる。

しばらく経ったころ、ふたりは退院した母親に1205号室の扉を開き、つくった宇宙を見せようとするが、部屋はすでにもぬけのからだった。ガッカリするふたりだったが、母の胸に抱かれたあたらしい家族、宇命うみちゃんの寝顔をみて満たされた気持ちになる。

その裏では、1205号室のベランダを飛び出た小さな星々が、ソラリ星人扮するぬいぐるみに導かれ、逃げ出すように夜の空へするすると昇っていく姿があった。

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内容に関するアピール

実際に自分の住んでいたマンションの隣部屋が空き室で、秘密基地にしていた思い出があります。自分が小さかったこともあってか、何もおかれていないその部屋は、やたらと広く感じたものです。その時の楽しかった思い出を、作品にしてみました。

文字数:113

課題提出者一覧