曖昧なグレーの空

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梗 概

曖昧なグレーの空

 惑星モーニン、電子的に隔離され、他世界との通信が一切不可能なこの星に、汎銀河警察機構の新人研修施設がある。超微小ブラックホール12個を周囲に配置することで、電子的に不可視とされた惑星一つを丸々使用した仮初めの日常生活の中で起こる様々な犯罪シチュエーションにどう対処するか、新人研修生たちは常に指導マシンたちに監視されて生活しているのだ。
  研修生のノートは、機械由来の意識体である。この惑星で用いている筐体はチェリータイプ、ひ弱でか細い少年っぽいそれに、今ではうんざりとしていた。単純な肉体的な戦闘において、素早いが重さの足りないこの身体は圧倒的に不利であった。そもそも自分が希望したわけでもない。ランダムで決定され配給されただけなのだ。一歩的に殴られ続ける格闘訓練の際、ノートが考えたのは強制的に双方の意識を入れ替えること。生体由来の意識はその際、一瞬見当識障害に見舞われる。
機械由来の意識であるノートにはそれがない。一瞬の遅延もなく、相手の身体の中で両目に指を突き立てるコマンドを発し、すみやかに自分の筐体へと戻る。曖昧なグレーの空を背景に、見上げる相手の顔面から熱い血しぶきが降り注ぐのを見つめ、冷静に勝利を確信したところで、禁じ手とされリセット、再び一方的に殴り続けられている状況の理不尽さに辟易とするノート。
  休日、首都ブレイキーで出会ったブルースマンの言葉「量産品のギターでも、俺が弾くと俺のブルースの音になる」に釈然とはしないまでも身体の個別性についてヒントを得るノート。
  そのころ、モーニンの周囲に設置された超微小ブラックホールのバランスに異常が起き始める。同規模のホワイトホールの存在が一瞬観測され、そしてそれら互い無効化してしまう。厳重に守られていた星が、今や何者かによって浸食されようとしているのだ。
  見上げる夜空に初めて星々の瞬きを数えるノート、知識では知っていた星空を実際に肉体で感じることの特異性を味わう。
  都市部の機能が次々と閉ざされていき、それまで存在していた世界が書割となり、やがて消えていく。残されたのは研修生たちとわずかな教官たちだけ。指導マシンが非常事態を宣言し、タクティカル・スーツの着用を促す。めいめい蒸着するが、それですら特殊な訓練のように感じるノート。
  天頂から世界がひび割れるように、空間が結晶化していく。それが地表に達した時、巻き起こる氷嵐の彼方に一人の少女の姿。長い黒髪がゆっくりと宙に波立ち、そして閉じられた瞼の奥には永劫を貫く虚無の漆黒。
「非生命由来の意識です。つまり、神」
 指導マシンが静かに告げる。
「お待たせ、みんな食べたげる」
 莞爾と笑う少女。
「だってもともとは、みんなあたしなんだから」

文字数:1126

内容に関するアピール

 小さい世界と言えば学校かなと思い、最近見ているドラマのせいで宇宙刑事を書きたいと思い、それでもテーマは意識なので、各由来の意識が生命であるとして、生体由来のものが一般的な意識、機械由来のものがAI的な意識、人工的でなく自然発生的に生まれた意識として神を想定した。何らかの結晶構造を利用して意識がそこに宿るなどと考えたのではあるけれど、本筋ではない。宇宙刑事が秋山澪と戦うシーンを目指して描いた。

文字数:198

課題提出者一覧