梗 概
オーバーアクティブ・ブラッダーズ
ブンゾは泥棒だ。ベテランではあるが、怪盗というほどでもない。頼まれればなんとかして目的の物を盗み出そうと、努力はしてきたつもりだが、結果がいつも上々とは限らなかった。
依頼人が来る。
軌道エレベータ上の静止衛星ステーション。
極めて富裕な老人たちの一部が、地上を離れ、ここで余生を過ごして
いる。私設特別養老院「桃竜」。
警戒の厳重なその施設へ侵入し、ある物を盗ってくるのが、依頼され
た仕事内容だった。
乗り気ではなかったが、近頃若手に仕事を奪われてばかりだし、老後
の貯金残高も気になっているところに、提示された報酬は大きかった。
ブンゾは、半身がサイボーグ化されている旧知の犯罪者ヘイデン•
パックを引き入れ、チームで準備を重ねる。
そして、欠員ができた「桃竜」へと入所する「要介護老人」とすり替
わり、警戒の厳重な軌道エレベータに乗り込み、静止衛星に侵入するこ
とに成功する。
ふくれあがった虫の卵のようなコンテナが、複雑にくみ合わさった形
状の居住区にある介護施設。ここには、引退した将軍、著名な元音楽プ
ロデューサーや大企業の元CEOとその元愛人など、20人ほどの老人たち
が暮らしている。
彼らは、大半の時間を、投与された薬剤にまどろみつつ、上半身を泡状の緩衝剤に包まれ、無重力のドームに浮かびながら、仮想リゾート空間での夢想にふけっている。
老人たちはそこでただ死を待っているだけではない。富裕老人たちは、
肉体が滅んだ後にも続く、さらなる人生を望んでいた。
様々に病を抱え、人生の残り少ないことを悟った彼らは、半睡の状態
のまま、頭部から伸びたコードで機械に繋がれ、全脳情報を徐々にAIに
転写させる処置を施されている。
時間のかかるこの処置のためには、重力の影響の薄いこの衛星の環境
が必要なのだった。
女性型アンドロイドのトリルと男性型ナースのラルゴの2体が、老人たちの介護にあたっている。
ブンゾは、依頼人の肉親である老人の「記憶」を盗み出す、または抹消するという依頼を受けていた。依頼主にとって、その老人の記憶がアップロードされ、コピーされ続けることは、非常に不都合なことだったのだ。
施設内でアンドロイドの視界から自由でいることは、容易ではなかった。計画では、ヘイデンのチームの破壊工作で、衛星全体の外部との通信が一定時間遮断される。その間、アンドロイドたちの動作が遅くなると予測される。
その瞬間が訪れる。
❇
結局、ブンゾは計画を中断して、脱出をはかる。
ほぼ自分で動作をとることもできなくなっていた標的の老人の目を覗き込んだとき、この仕事を受けたことは失敗だったとわかったからだ。
外部ではヘイデンたちが、軍の攻撃にあい全滅してしまう。
自らも怪我を負い、地上に降り立ったブンゾは、おそらく自分の命を取ろうとしているであろう依頼人の元へむかう。
文字数:1186
内容に関するアピール
自分には閉所恐怖症の気が少しあり、車の中や飛行機など、狭いところ、小さなところに長時間いることが、あまり好きではありません。ヘルメットや、VR機のヘッドマウント•ディスプレイなども苦手です。
足腰の元気なうちは、なるべく狭いところ、小さいところは避けたい、などと思っており、「仕方なく狭いところにいる」という状況を考えました。
老人たちの見ている仮想空間や、彼らの記憶の内容に触れたい等と考えていましたが、詰めきれませんでした。
文字数:216