秘密の小さな街

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梗 概

秘密の小さな街

 少女ニーナは怖い夢を見た。
あれは夢だったのか?嫌、違う、怖い現実だ。
少女ニーナが見てしまったのは両親が殺される現場だった。その怖い現実を忘れるために、怖い現実から逃げるために、ニーナは心の中に小さな街を作り出しその中に逃げ込んだ。ニーナは自分が思うままに空想した街の絵を描くことが好きだった。八歳のときに描いた絵の街を心の中に想い描き、そして街を現実化して、その街に怖い記憶と殺人犯の秘密と一緒に閉じこもった。

 殺人現場で保護された十歳の少女は記憶をなくしていた。
警察は少女から犯人の手掛かりを聞き出そうとしたが、その少女は口を閉ざしたまま何も言わなかった。
右手には丸めた画用紙を強く握りしめていた。事件は迷宮入りとなり十五年の月日が流れて少女は記憶をなくしたまま大人になる。

 村崎コージは残業帰りの終電に乗り寝過ごしてしまい終点駅まで行って眼を覚ます。
電車にはコージしか乗っていない。ホームに降りても駅員は見当たらない。
タクシーで帰ろうと思い改札を出て駅前のタクシー乗り場に行き辺りを見回すと見たことのない駅前風景が広がっていた。
終点駅まで寝過ごして行ってしまったのは初めてではないから、終点駅の駅前の風景もよく知っていた。
しかし、今目の前にある街灯に照らされている風景は知らない場所だった。
夜が明けた。
そこは大きな違和感のある小さな街だった。
その違和感は目に入る建物が全部、子供が描いた絵のような外観をしているからだった。
このような絵を村崎コージは何処かで見た覚えがある。いつ何処で見たんだろうか?と記憶を探っていると背後から声をかけられた。
振り返ると小学生くらいの女の子が立っている。
その少女の顔を見てコージは思い出した。
同期で入社した島本ニーナに見せてもらった絵だった。

コージは電車の中で寝てしまって見ている夢かと思ったが、どうやら現実のようだった。
なぜ自分がこの小さな街に来てしまったのかは分からなかった。
数日前の会社の休憩時間にコージは島本ニーナから「私には十歳までの記憶がないの」と聞かされた。
そして「子供のころに描いた絵だけが残されていたの」と言ってスマホで撮った絵の写真を見せられた。
「きっと十歳までの私はこの絵の街の中にいるのね」と笑いながら島本は言っていた。
コージも笑いながら「どうすればこの街に行ける?」と訊いたら「この電車に乗ればいけると思う」と絵の中の電車を指さしながら島本は言った。
その絵は確か、駅と電車、赤い屋根の小さな家、噴水がある公園、それから動物園などが子供らしいカラフルな色づかいと力強いタッチで描かれていた。その絵が三次元の立体となって今、村崎コージの目の前に広がっている。
コージは線路に沿って歩いてみた。1時間ほど歩いたら元の駅に着く。この線路は直線に見えるけど閉じている円だ。
この小さな街から何処へも行くことはできない。

 この小さな街にはニーナしかいなかった。少女につれられてコージは赤い屋根の小さな家に行く。そこに上司の岡部が現れる。

ニーナの両親は通り魔殺人の被害者だった。犯人はコージとニーナの会社の上司の岡部だった。
岡部はニーナの記憶が戻ってくることを恐れている。
岡部はニーナとコージの会話を立ち聞きした。
岡部はコージと同じ終電車に乗っていて、少女ニーナのいる小さな街に偶然に辿り着いた。
岡部は自分が殺人犯だということを知っている少女ニーナを殺そうとする。そして、この小さな街を破壊しようとする。
コージとニーナは動物園のトラを檻から逃がして、岡部はトラに食い殺される。
少女ニーナと小さな街は水に溶けるように消えていく。
そして、気がつくと村崎コージは現実世界に戻っていた。

文字数:1512

内容に関するアピール

子供が描いた絵が三次元の小さな世界として現実化して、
その絵の小さな世界で起きることをストーリーにしようと考えました。
なぜ絵が現実化するのか?そんなの無理だ!と言われればそれまでなんですが、なんとかして理屈をつけたいと思います。

文字数:113

課題提出者一覧