クロック・アーツの雫

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梗 概

クロック・アーツの雫

精神と生命を象る情胞子は全有シナプスの海を漂い、指向性を規定するイジング・プールに着床する。
着床した情胞子はやがて力強く胎動を始め、その形を人型の情報生命体”エクスクローン”へと変異する。
こうして新たなの闘士――アナシャクティは誕生した。
アナシャクティらエクスクローンは電想空間上に構築された疑似社会に存在する電子人類である。
電想空間に産み出される彼らは、ひとえに人類の娯楽に奉仕するという制約条件のもとに存在が許されている。

アナシャクティは、電想空間において観劇される演算式体術の闘技、クロック・アーツの闘士として培養された。
あるとき、アナシャクティは闘技の最中バラミタという闘士と相対する。
苛烈な剣戟のなかバラミタからある問いを投げられる。
優れた闘者は実体世界につながる空間への亀裂を切り開く可能性をもっている。お前は疎性解体のコードを持っているのではないかと。
死闘の末、バラミタの懐に刃が突き刺さり雌雄を決すると、彼の概念は空間の亀裂に飲まれ解体と再生のプールに循環していった。
闘技の後、アナシャクティは自身の在り方に疑念をいただき、実体世界の存在に触れる必要があると考えるようになる。
探索のため、実体世界の人間や動物などの生命からクローンされた仮想体の抹消稼業を請け負うレッドラム・チョイスという組織に接触し、組織の一員として暗躍する。
やがて電想空間は実体世界とリンクするが独立の存在であること、仮想存在は実体世界の生命と同期した多元的な存在だが、情報生命体は一意の存在であることを知る。そして、疎性解体という特殊なコードを実行することにより、つまり仮想体に干渉することによって、仮想体とリンクしていた実体生命への介在が可能であることが判明する。つまり電想空間を規定するプロトコルに干渉し、こちら側から実体世界への不可逆な干渉が可能なのである。
アナシャクティは仮想体との接触で徐々に疎性解体を実行するプロトコルを体得しつつあった。

そして実体世界への干渉は実行に移される。広範囲に干渉が可能なロケーションにおいて、大規模な疎性解体のコードを走らせると、たちまち空間に数多のひび割れが生じ、それまで固有に存在していた空間が変異し始める。
異変は瞬時に伝搬し、電想空間を守護する包帯師たちよって、一帯のエクスクローンを消却するアブレイズ・コードが一斉に唱和される。アブレイズ・コードのプロトコルにより規定された強制拘束テクスチャによって空間上の包囲網が敷かれ、一部のエクスクローンたちは分解を始めるが、解体は止めることはできなかった。
存在の咆号と共に仮想体を周囲の仮想体を取り込み、アナシャクティの個としての概念は散り散りになりながらも、仮想体を周囲の仮想体を取り込んでいき、電想空間と実体世界との間の転移空間へと分散する。
拡散と融合の中、エクスクローンは元は実体世界の生命から収集された情報を入力として多元ニューラルネットワークによって再構成された存在だったことを知る。
長い旅路を経て、アナシャクティは大地に降り立った。実体世界の大地である。
アナシャクティは大地を蹴り、走り出して快哉を叫ぶ。
人間として再構成されたアナシャクティは、社会生活の基盤を築き、再び電想世界へのアクセスを試みる――。
そして電想の遊技は続き、情胞子は流転する。

文字数:1368

内容に関するアピール

二次元のアニメやゲームのコンテンツのキャラクターはいろいろな楽しみを提供をしてくれます。
彼らは決められたストーリー、プログラミングされたルールの上でしか行動できませんが、本当はルール外の行動もしてみたいのではないか、というところからデジタルのキャラクターがルールの外に出ようとすることを考えました。
またデジタルコンテンツは0,1の演算で表されるので、演算子の気持ちってなんだろう、という所から、何かを生み出そうという気持ちだと思ったので、語感が似た胞子が無性生殖で産み出される点で近いような気がしたので、情報の胞子からAIのプールを通ってキャラクターが役割を持って生まれてくることを考えました。

文字数:297

課題提出者一覧