時間よ、動け!

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梗 概

時間よ、動け!

その公園は時空を彷徨っている。

相沢ユリエは四歳の娘マリエを連れて公園に来る。
こんな所にこんな公園あったかしら?とユリエは不思議に思う。
小さな公園だ。
ブランコ・すべり台・鉄棒・シーソー・砂場、それから時計台と、
何かのモニュメントらしいオブジェ。どこにでもありそうなごく普通の公園だった。
少年が一人で砂場で砂の山を作ったり穴を掘ったりして遊んでいる。
ベンチではホームレスみたいな男が横になっている。その他には誰もいない。
空は晴れて秋晴れだ。
ユリエはマリエをブランコにのせて遊ばせる。
今何時だろう?と思ってユリエは公園内の時計台を見る。あと一分で三時になる。
三時になったらスーパーに買い物に行こうと思ったユリエは、娘に声をかけてブランコから降ろそうとしたとき、
時計台の針は三時になった。
すると突然、今まで晴れていた空が真っ暗になる。
公園も一瞬闇に包まれるがすぐに外灯がともる。
驚くユリエ。公園内は外灯で明るいけれど、さっきまで太陽が出ていた青空は星もない暗闇になっている。
空だけではない。公園の柵を境に公園の外側も真っ暗闇になっている。
さっきまで見えていた道も家も電柱も何もかもなくなっている。
まるで暗闇の中に公園が沈んでいるようだ。

砂場で遊んでいた少年が近づいてきてユリエに言う。
「ここから出ることはできないよ。時間が止まっちゃったから。時間が動いているのはこの公園の中だけだよ」
ベンチで寝ていたホームレスのような男も起きてきてユリエに言う。
「この子はケント。私の息子です。三十年前に八歳で死んでいます」
ユリエの目の前にいるケントは、ケントの八歳までの記憶を移植されたアンドロイドだとその男は言う。
ケントは言う。
「どうして時間が止まってしまったのか、それは僕にもよくわからない。きっと誰かがやったんだよ。
もうこれ以上時間を進ませたくない。未来に行きたいくないって心に強く思っている人が」
ユリエはケントの父親と一緒になって時間を再起動させる方法を考える。
時間が止まってしまった、ということを、アンドロイドのケントは知っているのだから、
きっと再起動の方法も知っているはずだとユリエは思い、ケントに問いただす。
しかし、ケントは「僕にはわからない」を繰り返すだけだった。
ケントの父親が言う。
「この子は死ぬ前、この公園の砂場に何かを埋めていた。ケント、何を埋めたんだ?」
「僕の記憶に何を埋めたかのデータはないんだよ。でも何かを埋めたという記憶データは残っている。
だから、さっきから砂場を掘っているんだけどまだ何も見つからない」

ユリエ・マリエ・ケント・ケントの父親は砂場を掘る。
そして、ビン詰めにされたメモを見つける。
メモには『思い出を探せ!思い出は時の中に』と書かれている。
ユリエは時計台からメモリーディスクを見つける
それを公園内のオブジェに組み込むと時間を再起動させることができた。

ホッとして買い物に行こうとするユリエとマリエにケントは言う。
「無事に公園から脱出できてよかったね。楽しかったね。また遊びにきてね」

公園は消滅する。
一体何が起こったのだろう?とユリエは夢でも見ていたような不思議な気持ちを抱えて、マリエの手を引き買い物に行く。時間の流れについて考えながら。

文字数:1328

内容に関するアピール

一つの場面は小さな公園にしました。
その公園を残して全宇宙の時間が止まってしまうという設定です。
その公園は時空を彷徨い、様々なパラレルワールドの中に出現します。
その公園は未来人がちょっとしたイタズラ心で作ったアトラクションの脱出ゲームようなものです。
その脱出ゲームが突然現代に現れて、強制的にゲームをしなければならなくなるストーリーです。
ケントと父親はこの脱出ゲームに組み込まれている仕掛け人です。
ユリエは必死になってこの公園からの脱出方法を考えながら、時間の流れについても考えていきます。
そして、時間の流れというのは、思い出として人の記憶に残っていくこと。
このことにユリエが気づくことが時間再起動の方法のヒントになります。
実作では梗概で書ききれなかったタイムリミットを設けて、スリル感を出したいと思います。

文字数:353

課題提出者一覧