水の記憶

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梗 概

水の記憶

ある惑星にクラインの壺型知性体が来訪してきた。
彼らはいまだ見ぬ液状知性体と接触するために外宇宙探査を続けてきて、液状知性体との存在を把握し、接触のためのノウハウは蓄積されていたため、
その惑星に先住していた液状知性体との対話は拍子抜けするほど簡単に行われた。彼らはフランクに身の上話に移行した。

その惑星は哲人王政治を選んだ。西洋哲学とはつまるところプラトンの注釈に過ぎないというのはその惑星が証明した。
あらゆる子らは国家のもとに生まれ、国家に教育を受ける。
その中から特に優秀な成績を残した者が、今や片手で足りるほどの職種しかない有職者になる。
さらにそこで特筆すべき実績を残した者が、賢人会議への参加を許され、千年前に建設された自律駆動型人工知性体と共同でこの世の全ての意思決定を行っている。

その国家の子らが一人、ライ・リオッタは判例と移ろいゆく時代の価値観のバランスを判断する司法AI群の監察官を目指し、法曹のエリートとなるべく道を歩んでいた。
野心家の彼は当然、それが賢人会議のメンバーとなる王道だということは熟知していた。

この時代のトレンドは科挙の再評価だった。
司法AI群の下した巨大数ほどある判決の引用を、学生たちはペーパーレステストで競い合った。
もちろん昔と違い、今の時代のスマートドラッグの質は格段に高い。成績がいいとはいまだ見ぬ化学式を生み出せるということだ。

他の学生たちが既存のドラッグの改良をしていただけだったが、リオッタの才はオリジナルのスマートドラッグを開発する際に全く新しいアプローチを行ったことだった。
それは身体を一時的に液状化し、個々の細胞単位で演算した結果を全身の細胞で共有し、検算のプロセスを省くというアイディアだ。
これによりリオッタは同世代とは桁が違う成績を叩き出し、史上最年少の17歳で監察官に選出された。

しかし、この手法には落とし穴があった。液状化した身体が元の形状に戻らなくなる可能性があった。
その可能性は地球を粉砕する隕石が落ちるより低かったが、それは起こった。

ただリオッタは満足だった。恒常的な液状化は彼の知性を爆発させた。
それから彼は自律駆動型人工知性体のオブザーバーとして密かに賢人会議へ参画し、全ての彼以外の知性体が滅びたその惑星の歴史をアーカイブし続けていた。

リオッタはただそれだけの話だと語った。

文字数:972

内容に関するアピール

あからさまなソラリスのパロディであり、ソラリスモノというジャンルの一亜種というつもりで書いています。
ここでは「場面」、もしくは「舞台装置」はファーストコンタクトモノを始めると見せかけて、
「なんであんたは液状化したんだい」という落語のように身の上話をさせるという風に換骨奪胎した、という風です。
お約束を換骨奪胎、というと聞こえはいいですが、今回は初提出で半年間梗概を出せなかった産みの苦しみを克服するための作品です。
最初のアイディアをテーマに沿うように語り直しただけですし、次回から改善したいと考えています。
あと梗概を800文字以内に収めることと、と文学性を放棄する旨を厳守することを制約と誓約にしたいと思います。

文字数:306

課題提出者一覧