「第1回」お疲れさまでした。
「自己紹介」というお題、枠の中で、うまく自己表現ができたでしょうか。
これから先、毎月いろいろなお題が出され、みなさんはいろいろな自分の可能性に気付き、能力を身につけていくでしょう。
そして最終課題では、1年間で積み上げたそれらの能力を駆使して、これぞという集大成の1本を描き上げることになるわけです。
それに先駆けて、この第2回では、まずお題なしで、どストレートに、あなたらしい作品を出してみてほしいのです。
もちろん、16ページという枠はありますが…。
第1回の「自己紹介」とは違って、いわば「自作紹介」というべきでしょうか。
こんなふうに想定してみて下さい。
あなたに、突然、あなたのあこがれる雑誌(あるいは媒体)の、有力編集者がいきなり担当についてしまった!
「面白かったら載せようと思っているんだよ。君の一番自信のあるジャンルの作品を思い切って出してくれる?
16ページで」
「それが評判よかったらさ、連作で毎月載せようと思うんだ。それで1冊分たまったら、短編集を出したい」
「第1短編集だからね、ある程度はコンセプトが統一されていたほうがいい。その方が読者も手に取りやすいし、
売り出しやすいからね。」
「その短編集の表題作となるようなのを1本まず初めにがつんと出してほしいんだ。」
「何作もやるわけだからね、売れようとして無理に不得意なものに挑戦したって続かないし、
とにかく自分で、一番描きやすいもの、一番描きたいと思えるものでいいんだよ。」
「ただし、本にするわけだからね、ある程度いろいろな人に伝わるものにしたい。
うちはわりと、意外かもしれないけれど、老若男女様々な読者がささえてくれているからね、
自分とは違う性別や、年齢、異なる読書趣味の人にもなるべく伝わるような、
そういう描き方を頑張って心掛けてほしい」
「つまりね、きみのど真ん中を、見知らぬ誰かの心のど真ん中に届けてほしい、とこういうわけだ」
「やってくれるよね。締め切りはひと月ないけど、いいネームを待ってるよ!」
…こんなことを言われてしまった、と。
人によっては、これはチャンス!と前のめりに乗っかっていける人もいるだろうけど、
「え~。自分はまだなにをやりたいかもよくわからないし、得意なものなんてないし…
どうしろっていうんだよ」と立ちすくむ人もいるでしょう。
しかし…これはもう、不安でも何でも、とにかくやるしかないよね。
とにかくがむしゃらにやって頂ければそれでいいのですが、いくつかは、具体的なヒントを出しておきましょう。
「やりたいもの」「(比較的)得意なもの」がわからない…という場合。
第1回の、他の生徒さんの漫画をざあっと読み直してみましょう。
自分と全然タイプの違う人の作品がたくさんあるでしょう。
それらと、自分の描けるものを比べてみれば、自分の売りが少しは見えてきます。
「いろいろな人に《伝わる》ように、って言われても…どうしたら、自分とタイプの異なる他人に伝わるのか、
あるいはどういうふうにしちゃったら伝わらないのか、さっぱり見当がつかない」
こういう方もまた、第1回の、他の生徒さんの作品を読んでみて下さい。
こうした「教室」の利点のひとつに、ふだんめったに目にできないものが見られるということがあります。
それは、「読みにくい」「伝わりにくい」未成熟な漫画を読むことができるということなんです。
なんだか意地が悪いようですが、ぶっちゃけこれを活用しない手はありません。
「このひとの漫画、このセリフを誰が言ったのか、わかりにくいな」
「この言い方だと、ぼくはこう誤解してしまったから、ああいう言い方にしてくれればよかったのに」
「このひと、ここで前振りしたつもりで話を進めたけど、読者として完全に読み飛ばしてしまっていたから、
あとで出てきたときに全然意味がわからなかったな。確かにしげしげ読み返してみると一応ちゃんと書いてあるんだけど、
これだと流されちゃうのか…。どう描いてあったら読み流さずに、印象に残っただろうか、
そういやそもそも、この時点ではこのキャラ、重要人物だと気づかなかったわ! だから流しちゃったのか。
けど、ベタに絵やセリフで説明し過ぎるのは確かにカッコ悪くて避けたいっていうのはわかるんだよね…
だけど…じゃあどうしたらいいだろう? ああ、これならギリ美学的にも許せる範囲で伝わりやすくできるかな」
「この、7ページ目の決めゴマ、絶対見開きでどーんとやるべきだったよね。けどページが足りなかったから無理なのめちゃわかる。
…けどこれって、4~6ページ目あたりのコマをもうちょっと整理してさ、4~5ページの2ページにうまく収めれば、
6~7ページで見開きがとれるんじゃないのかな」
「このひと絵もコマ割りもぱっと見めちゃくちゃうまいっぽいのに、この肝心なところが流れちゃって目が止まらないな」
「あっ、もう一度読んでみたら、ここで回想シーンに変わってたのか。全然気づかなかったから、
なんか変だなと思ったまま読み進めちゃった」
「タイトル入れろって先生言ってたのに、タイトル入れてないじゃん」
…うまくいっていない他人の作品を読むと、自分でもついやりがちなミスを、読者目線で認識することができます。
また、読者として読んでみると、いかに読者が作者の思うとおりに読んでくれないか、自分事としてよくわかります。
こうして、他の人の作品の欠点を分析した後に、自分の、今やっているネームを、なるべく自分とは違うひとになったような気持ちで
読み返してみると、欠点に気付けたりします。
また、よくあるのは、なんとな~く欠点に気付いていても、直すのは面倒なので、無意識の方に押し込んでしまって、
「なかったことにして」そのまま完成、提出する、というパターンです。
提出したものに指摘を受けると、「あ、やっぱりそう思いました? 自分もまずいと思ってたんですよね~」と言うとか…(笑)。
まあ、どうしてもそういうことってあるんですが、そのうちのいくつかだけでも、
提出前に自前で気付いて、腹をくくって直せれば、すごくいいですよね。というか実はそれが出来るようになるというのが、
漫画家として結構重要なことだったりするのです。
1年後、言われて直すことが減っていたり、言われて直すことの内容が、より高度なものにランクアップしていたりすればいいですよね。
ともかく、描きたいもの、に関しては変に遠慮したりせず、しかし同時に、それがちゃんと伝わるように一生懸命感性を研ぎ澄ませて、
これぞという1本を出してみて下さい。もちろん今の精いっぱいでいいのです。
つまり、《今》のあなたの《名刺》となるような短編を1本作ってほしいのです。
実は、第2期の時に僕が出した課題が、まさにそれでした。
これまでの文章を読んでよくわからないという方は、2018年度の僕の課題文を読んでくださると、
理解の助けになるかと思います。
2018
「『名刺』となる短編1本~『読ませる』ということ」https://school.genron.co.jp/works/manga/2018/subjects/2/
言葉を変えても、僕が欲しいものはいつも同じです。
あなたの伝えたいかけがえのないものが、ちゃんと伝わるように描かれている漫画。
笑わせたいところ、感じてほしいところで空振りしないよう、
うまく僕の(あるいは見知らぬさまざまな読者の)心をたくみに誘導して、
「面白かった」と思わせてください。
あ、あと、第1回の課題文で、さやわかさんが書かれていた各種「注意点」は今回も引き続き意識してくださいね。
あそこに書いてあったので、ここではあえて再度書かなかっただけですので!
楽しみに待っています。
もし可能でしたら、ゲンロンから発売中の「マンガ家になる!ゲンロンひらめき☆マンガ教室第1期講義録」という本を、
僕の関わった部分だけでもいいので(笑)、事前に読んでみて下さい。
書名の通り、第1期の講義内容がガッツリ載っています。課題のネームを作るのにも役に立ちますし、
なにより読んでおいて頂けると、当日の講義ではさらに深いところまで話が進められるので、より充実させることができるというわけです。
あくまで僕個人の希望ですが、よかったらよろしくお願いします。
(武富健治)