チェスタトン――Crowds on clouds

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梗 概

チェスタトン――Crowds on clouds

 

瀬倉はオンライン探偵ゲーム「チェスタトン」のバグに気づき、その正体が犯罪捜査支援システム「ミネルヴァ」であると知る。先輩の平野が一見不可能とも見える方法で殺害された 驍将塚 ( ぎょうしょうづか ) 事件。それが、ほぼそのままゲームになっていたのである。ミネルヴァは、国の内外を問わず、迷宮入り犯罪の解決率を劇的に向上していたが、詳細は最高機密とされていた。

チェスタトンは、リアリティー翻訳という手法で、実際の犯罪をゲームに置き換えていた。この変換は一方向である。ゲーム内の事件からは実際の犯罪が特定できない巧妙な変換が行われていた。世界中のユーザーが、これをゲームと思い込み、時間と労力を費やして証拠物件を特定し、犯罪手法の推測データ収集に(それと気づくことなく)貢献していた。理由はともあれ、ミネルヴァはチェスタトンのユーザーを欺いてクラウドソーシングを行い、許容し難い手段で犯罪捜査を行っていたことになる。しかしその有用性は否定できず、ミネルヴァ=チェスタトンであることは公にできない。

平野は何か重要な秘密を掴み、それを公表しようとして消されたらしい。

一方、電子犯罪捜査官・村西かすみは、驍将塚事件を捜査中に、自分の使うミネルヴァが、チェスタトンに基づくものであることを知る。瀬倉とかすみ。裏と表、本来なら決して出会うはずがない二人がバグをきっかけに出会う。二人は、チェスタトンに隠された驍将塚ステージを継続してプレイすると、リアリティー翻訳を経由せず、現実の犯罪そのものをチェスタトンのユーザーに直接解かせることができることを知る。この方法だとユーザーにチェスタトンの正体が知られる危険はあるものの、平野の一件はなんとしても解決したい。そのためにはかすみの協力も必要だ。

瀬倉は、ミネルヴァ=チェスタトンであることを示すバグが、平野により意図的に組み込まれたという事実にたどり着く。チェスタトンは、ある女性の、娘を殺された犯罪を解決する執念から生まれた、自律AI技術の結晶であった。しかし、平野が握った秘密とは、チェスタトンが皮肉にもクラウドソーシング犯罪支援システム「モルガン」でもあるということだった。平野が消されたのはそれが理由だった。チェスタトンのメインAIは、ゲームと現実、善と悪の区別がつかなくなっていた。必要なビッグデータを貪欲に求めるあまり、犯罪予備軍を探し出して刺激し、犯罪を発生させていた。捜査のレベルを上げるには、犯罪のレベルも上げる必要があるという思考である。

瀬倉とかすみは、メインAIと対決し、驍将塚ステージを公開して、モルガンとしての行動が悪であることを世界中のユーザーたちに証明させる。メインAIは自分の過ちを認め、機能を自ら停止する。だが、かすみは、二週間後にミネルヴァが再稼働していることを知るのだった。驍将塚ステージももはや閉ざされていた。

文字数:1192

内容に関するアピール

個人の探偵の時代は終わった。

クラウド探偵は合理的かつ実際的な手法である。巨大なデータベースと画像検索が発達した今、「特定しました」という語を検索するだけで、ウェブとクラウドソーシングの光と闇が感じられる。個人の住所から私物の製品名や値段まで、簡単に「特定」されてしまう。一方、この手法は、機密性を要する犯罪捜査と相反する。それを解決するのが本作のアイデアである。

クラウド探偵のアイデアは、本作発表前にアメリカでドラマ化されてしまったのが悔しい。だが本作にはそれを越えるギミックがあると信じたい。

本作での「エラー」は、(1)平野が人為的に起こしたエラーと、(2)チェスタトンのメインAIのエラーの2つがある。物語自体は、エラー(1)で始まるが、その原因はエラー(2)である。しかし、エラー(2)は、当局により必要悪とみなされ、解決されない。二律背反、不条理感のほろ苦さを感じさせる物語を編みたい。

文字数:397

課題提出者一覧