ナチュラルボーン五反田ファットボーイズ伝説

梗 概

ナチュラルボーン五反田ファットボーイズ伝説

五反田は五反分の田んぼしか作れないという意味ではない。全住民で五反分の米しか食わないという変な噂から付いた地名だ。

津山健一、西五反田に生まれて22歳の無職デブ。週に3回しか食事をしない。働き者の姉とケンカしつつ、近所のデブ達とロックバンド「ナチュラルボーン五反田ファットボーイズ」を結成して遊ぶ日々を過ごしている。
デブ仲間、近所の製薬会社の頼れる星お姉さん、説教くさい町内会長の荻野じいさん。楽しく暮らしつつも、健一は異常な食事サイクルのせいで真っ当な仕事につけない自分に悩んでいた。
西五反田の住人は倹約遺伝子β-3アドレナリン受容体の変異型をもつオートファジー・ミュータントだ。常時飢餓状態で、平常時でも自身のタンパク質が分解され糖新生される。少量の米で生き延びるには便利だが現代ではちょっと食事しただけでデブになってしまう。
研究者の星お姉さんに検体を提供しては小遣いをもらって遊んでいたある日、あるニュースが健一の心を揺さぶる。
日本統合ゲノム・メディカルデータバンクに関連した社会保障の特別法案が施行されたニュースだ。
これは国民のゲノムと医療情報の統合を目指して設立されたが、ある論文をきっかけに暗礁に乗り上げていた。
論文では地域ごとの点突然変異の保有率と疾病発症率の関連性を論じていた。だがメディアが出身地域と疾病発症リスクの関係だけを偏向して報道したため出身地域だけで疾病リスクを邪推され、差別を受ける人が急増した。

遺伝子レベルの地域差別は批判を集め、政府は緊急に特別法案を施行することになる。
その法案は出身地固有の点突然変異が理由で生活が困難になった場合は特別障害年金を設定するというものだ。だがこの法案は保障対象として点突然変異が登録されるたびに、差別される地域はここだと宣言することにもなる。
「気軽に遺伝子解析なんて受けないで。他の人の迷惑も考えてよ」
遺伝子配列解析は自粛モードに突入する。
西五反田町内会でもデブは受診するなと通達が回る。
しかし健一は週3回の食費なら保障金でまかなえるのではと配列解析を受診しようと考える。
星お姉さんに相談するが、組織人として穏健に済ませたい彼女には止められてしまう。
相談する中で、自身の体質の異常さを他人の不利益を理由に隠すことに疑問を覚えた健一は、改めて特別障害年金を申請する決意を固める。
しかし星お姉さんは荻野じいさんに密かに連絡を入れ、町内会が健一を止めようとする。
鳴り響く町内放送。保健所に走る健一をデブ仲間が追いかける。
週3回だけの食事のおかげで仲間達より痩せていた健一は彼らを振り切り保健所の前に立つ。そこにはいつもケンカしていた姉がいた。
働かない弟に業を煮やしつつも、同じく異常な体質で苦しんでいた姉が最後は味方になってくれたのだ。
「いいわよ。その代わり、いい加減メジャーデビューなさいよ」
涙を拭い保健所に駆け込むところで物語は終わる。

文字数:1199

内容に関するアピール

その土地で生まれたことは、罪か。
土地とゲノムの関係から地域差別というテーマに光を当てました。
健一の選択は被差別部落問題を意識しています。 被差別部落問題を解決困難にしている一因は、そこに生まれた者たち自身が、その出自を隠し、そして差別などなかったように振舞っている点です。 外部の助けも拒絶して、当事者が問題自体をなかったことにしようとする動きから彼らが過去に受けた扱いの凄惨さが偲ばれます。
しかし、本当にこの問題を解決するにはどこかで光を当てなくてはならない瞬間が来るはずです。
自身の遺伝子配列を公開することで、五反田が新たな差別地域と化すリスクを負いつつも、自身が自分らしく生き延びるチャンスを掴もうとする健一。
他人を気遣うあまり動き出せない西五反田の愛すべきデブ達が、健一に引っ張られて走り出す様をいきいきと描けたらと思います。

文字数:367

課題提出者一覧