朝帰りは五反田始発で

梗 概

朝帰りは五反田始発で

 始めて参加する五反田での読書会で、宇宙SFが好きだという星島に一目惚れした志季。会話も弾み、志季はすっかり星島に夢中になる。志季は星島の関心を引くために熱心に読書会に参加し始める。仲間との五反田食べ歩きも楽しみになった。

 しかしその後、星島は読書会に現れなくなる。一方、志季は星島の姿を求めて参加し続け、ほぼ一年が経った。五反田読書会は二十回を数え、祝賀会が開かれる。そこに久しぶりに星島が現れる。志季はここぞとばかり三次会までがんばり、朝を迎える。星島も残っている。早朝に解散する参加者たち。

 五反田駅で最後に残ったのは、五反田始発の電車に乗る志季と星島だった。ひょっとして近所なのかと舞い上がる志季。同じ電車なら、車中で告白しよう。今日は土曜日、駅についたら一緒に週末を過ごしたいと志季は強く願う。

 しかし、星島は特急列車、志季は鈍行列車だった。両者の違いは速度だけではない。二人の行き先は違っていたのだった。

 品川操車場跡地には、飛行列車発着カタパルト、通称「品川スロープ」が、大崎から品川にかけての山手線のカーブをなぞる御殿山をとりまく一帯には加速ループ線路、通称「御殿山リング」が建造されている。五反田駅を発車した電車は御殿山リングを三周回して加速し、品川スロープを登り切ると空中電磁軌道に乗って空を飛ぶ。

 弾道飛行によって同様の設備を備えた仙台駅との間を往復する”JR五仙線”が「鈍行」。

 東急電鉄が沿線開発の奥の手として岩手県三陸沖上空に建造した巨大静止衛星都市”東急スカイスター”との間を、ほぼ直線で往復する”東急スカイスター線”が「特急」と呼ばれる。「特急」は開通したばかりでまだスカイスターに一般人は住んでいないはずだった。

 仙台に住む志季は、JR五仙線で五反田読書会に通っていた。星島は東急スカイスターの建造に携わる電鉄社員だった。呆然として発車ホームで星島と別れる志季。

 まず鈍行列車が、ついで特急列車が、御殿山リングを周回して加速し、品川スロープから空中に射出されていく。自分が乗る鈍行列車を上空から追い抜いて飛翔していく、星島の乗る特急列車を見上げる志季。

 そのとき、志季にメールが届く。それは文芸誌からの書評執筆の依頼、読書会にいた編集者からのスカウトだった。まだ学生の志季にとって思いも寄らない商業デビューのオファーである。

 驚いている志季にまたメールが届く。星島からだった。志季が読書会でプレゼンしている映像を車内でみて感心している、また会おうというメールだった。

 宇宙に吸い込まれる一筋の光跡となった星島の特急列車、その先に輝く東急スカイスターを見つめる志季の目に、重なる感激で涙がこぼれる。

 志季は初仕事に恒星間宇宙SFの書評を依頼される。星島から、スカイスターで一緒に本当の星空を見ようと誘われた志季は、五反田乗継で弁当を買い、特急列車に飛び乗るのだった。

文字数:1199

内容に関するアピール

 主人公は五反田読書会での一目惚れを成就させるために熱心に活動しますが、一年越しの想いはなかなか届きません。一方、その努力は才能を磨き彼女の生きる世界を精神的にも空間的にも大きく広げていきます。主人公にとって五反田は広い世界への始発駅なのです。

 放物線を描く「鈍行列車」と、直線的に飛翔する「特急列車」が朝日を浴びて成層圏を突き抜けるカタルシスを主人公の心情に重ねます。

 「品川スロープ」は銀河鉄道999そのまま、「御殿山リング」は巨大な指輪を空中に横倒ししたイメージで”一つだけ現実と異なる設定”です。御殿山、八つ山の方角に浮かんで見える二つのモニュメントは五反田住民に親しまれています。最後の場面で二人が五反田駅で別れるまで種明かしはせず、驚きを演出します。

 実作では目黒川周辺や島津山を舞台に、読書会を主催する不動産屋、主人公を読書へと誘い親友となる女性を加え、四人の人間関係を描きます。

文字数:397

課題提出者一覧