バナナ天ぷらとゲイシャに乾杯!

印刷

梗 概

バナナ天ぷらとゲイシャに乾杯!

時代は2030年。オリンピックから十年が過ぎた首都トウキョウは、外国人観光客をもてなすレストランで町は賑わいをみせていた。トウキョウ下町育ちのワタルは、都内のレストラン「TATAMI」にウェイターとして雇われた。そこはニッポン最先端のテクノロジーを駆使した画期的なレストランで、世界中からやってくる客に対して言葉や文化の壁を越えた「おもてなし」をする完璧な店だ。テーブルに飾られたボンサイに仕込まれたカメラから食事を楽しむ客の動向をすべてモニターし、その映像を厨房の壁に取り付けられた巨大スクリーンへと送る。このスクリーンは「BBスクリーン」と呼ばれていて、そこに映し出される客の外国語の会話はすべて自動翻訳されて、彼らの会話から彼らの嗜好傾向が分析される。さらに客の人種や文化的背景、年齢などから解析して彼らが「最もおいしい」と感じる味の料理を提供できるという仕組みだ。また、このレストランは外国人がイメージするニッポンを巧みに演出していて、店内にはエキゾチックな松林が茂り、小川には太鼓橋がかかり、3Dのプロジェクターで浮かび上がる招き猫が宙を舞う。サクラ並木に囲まれたVIPルームにはステージが設けられていて、そこでは十五年前にはアイドルだった少女たちが、今はゲイシャとなって踊っていた。つまり、古風なニッポンとアキバ的なニッポンが融合した店なのだった。

ワタルは日々おもてなしに勤しんでいた。今はニッポンのレストランはどこもチップ制を導入していて、ワタルは客からチップを多くはずんでもらおうと、笑顔を絶やさない。しかし厨房の「BBスクリーン」は客をモニターすると同時に従業員の仕事ぶりをも監視していて、ウェイターもウェイトレスもコックも厳しい監視下のもとに休む間もなく働かされて、やがてメンタルを病んでいった。外国人をおもてなしすることによって日本人がボロボロになっていく状況を見て、ワタルはこれを「おもてなしファシズム」と呼んだ。ワタルは「おもてなしファシズム」に戦いを挑むべく店長にかけあうが無力に終わり、さらにストライキと称して店を停電させようと試みるが失敗する。最後の手段として「TATAMI」フランチャイズの社長に談判に向かうと、そこで初めて社長こそがかつてこの国でブラックという言葉で形容された労働形態の被害者であったことを知らされる。ワタルは考えた。トウキョウにやってくる世界中の人々は本当に僕たちの「おもてなし」を望んでいるのだろうか? 今や多くの外国語が飛び交うこのコスモポリタン・トウキョウで、ニッポン人だけが自らを縛り、窮屈な生き方をしているのではないか?

文字数:1092

内容に関するアピール

オリンピックについて私がこの話をすると、周りの人たちは皆首を傾げますが、私は2020年の東京オリンピックが日本人の意識を大きく変える契機になると信じています。東京オリンピックというイベントをきっかけにより多くの外国人が日本にやってくることで、そして観光立国として発展していこうという国の政策も重なって、私たちは日本を訪れる今よりも多くの外国人観光客を通じて異文化に触れ、肌の色や言葉の違う人々を今よりも深く知ることになるでしょう。そのことが必ず私たちの意識やものの考え方に影響を与えると思うのです。私はこの作品を、比較的近い未来をテーマに、オリンピック後のトウキョウを舞台に書いてみたいと思います。

文字数:299

課題提出者一覧