最後の切り札

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梗 概

最後の切り札

A1
 夜。民家のテーブルに集った子どもたちが、各々魔法使いを演じて架空の生物と闘うゲームに興じている。少女カーネフェルは演技をするにはまだ幼いだろうと、兄バラハたちの遊びに混ぜてもらえない。一人さびしく窓の外を眺めるカーネフェルは、空から光る何かが家の庭に降りてくるのを目にする。驚いてしばらく注視していると、光る物体はまた空に飛んで行ってしまった。

B1
 狸のトリオンフィは、街から街を渡り歩く放浪者(tramp)だ。都市開発により野山を追われ、街中の残飯を頼りに生活している。捕らえられ、数が減る仲間たちの中で、トリオンフィが生きながらえているのには理由があった。トリオンフィは既に絶滅したとされる、変化の術を会得した狸だったのだ。

A2
 翌日、カーネフェルが一人で留守番していると、自分より小柄で、自分たちと随分見た目の違う、見たことのない二足歩行の生物が訪ねてくる。言葉が通じないが、「トランプ」という名前らしい。昨夜の光る物体に乗っていたのだけれど、仲間うちから一人だけ取り残されてしまったようだ。カーネフェルは新しくできた友達と、意思の疎通を試みる。

B2
 ゴミ置き場で少年に見つかりそうになったトリオンフィは少女に化ける。少女の姿のトリオンフィに一目ぼれした少年バラハは、家に来て一緒に遊ぼうと誘う。暖かい寝床を確保できそうだと、ついていくトリオンフィ。そこでバラハが集った他の子どもたちと一緒に遊ぶことになったゲームは、魔法使いを演じて、変化ができる狸の化け物と闘うという物語だった。皮肉な状況を自嘲気味に笑うトリオンフィ。

A3
 トランプはカーネフェルの足に装着された「電話」を目にし、カーネフェルにこれは何かと尋ねる。通信機であることを理解したトランプは、自分も利用したいと仕草で訴える。どうやら自分の家に電話をかけたいようだ。トランプの使う言語では通信機のことを「トランペット」と言うらしい。家の中でトランプのサイズに合った「電話」を見つけるも、「電話」と「トランペット」は原理が異なるためか、トランプは「電話」を扱えない。

B3
 いつしか夜が更け、子供たちは自分の家に帰っていく。トリオンフィは帰るふりをして見えないところで「電話」に変化し、家に留まる。翌日、目が覚めると「電話」に化けた自分をバラハの妹と見たことのない生物が見下ろしている。見たことのない生物が、自分を履こうとする。履かれたら重さで死んでしまうかもしれない。トリオンフィは、最後の切り札として仕込んでいた毒針を、その生物に思い切り突き刺した。

A4
 体調を崩したのか急に動きが悪くなるトランプ。いつしか動かなくなる。死んでしまったと思い、泣き出すカーネフェル。そのとき、トランプの腕のランプが光り出す。トランプは生きていたのか。トランプを担いでカーネフェルが自宅の庭に出ると、光る船が迎えに来ていた。トランプは元いた世界に帰るようだ。

B4
 見たことのない生物に履かれることを免れたトリオンフィが息をつくと、死んだ生物を悲しんだのか、バラハの妹が大声で泣き出す。「ぱおーーーーん」。見たことのない生物の腕が光りだし、家の庭に光る物体が降りてくる。バラハの妹が、庭の光に気を取られている隙に、トリオンフィは見たことのない生物を隠して、自分がその生物に変化した。バラハの妹に担がれて庭に出たトリオンフィは、光る船の乗組員に連れられて、その船に乗り込むことになった。「トランプ、本当に申し訳ありません。災難でした。いったんこの星を離れましょう。いずれまた」。トリオンフィは、見知らぬ世界に連れていかれそうな状況に「不運(tramp)だけれど、元々自分は放浪者(tramp)」と思い、笑みを浮かべた。


 宇宙探査船乗組員である、トランペット奏者のトランプは、仲間たちと地球以外に人類が生存できる星を探していた。ある星に着陸し探査を開始してすぐ、天災により惑星脱出を余儀なくされる一行。突風に襲われたトランプは宇宙船に乗り遅れ、言語解析装置や通信機も壊れてしまう。翌日、意識を取り戻したトランプは住居らしき大きな建物を訪ねる。その星には地球の「象」に似た生物から進化したと思しき知的生命体が生息していた。人間よりだいぶ大きなその生物の一個体(カーネフェルと名乗る)と、意思疎通を図ろうとするトランプ。彼ら(彼女ら?)は足の裏に機械のようなものを装着し、通信手段としているようだった。その靴のような通信機が、トランペットによく似た音を出しているのを見たトランプは、その通信機で大きな音を出せば宇宙船がトランペットのような音を感知して自分を迎えに来るかもしれないと思う。トランプは、自分が装着しようとしている通信機がトリオンフィが化けたものだと気付かず、毒針を刺されて絶命してしまう。

 トランプが乗り遅れたことに気付いた他の乗組員は翌日、燃料補給したうえで昨日の脱出地点付近に戻るが、トランプが見つからない。そのとき一際大きいトランペットの音を宇宙船が感知する。トランプのトランペットかもしれない。宇宙船が現場に急行すると、そこでは大きな「象」に似た生物が、トランプの亡骸を抱えていた。トランプの屍を受け取り、その星から脱出する乗組員たち。いったん地球に戻り、武装したうえでまたこの星に訪れようと相談していると、トランプの屍が動き出した。

文字数:2200

内容に関するアピール

ぱおーん=Happy
ぱおーん=Happy

 

1.象から進化した知的生命体の惑星
2.変化ができる狸が存在
という別種の世界観を並立させました。

1.の着想元は、
象の鳴き声を意味する英単語=trumpet
→trump+『E.T.』

2.の着想元は、
『この世界の片隅に』の登場人物名が元素記号だという情報を人から聞く
→化学→化学(『平成狸合戦ぽんぽこ』の“ばけがく”)

象から進化した生物が、足に通信機を装着しているのは「象の足の裏は非常に繊細であり、そこからの刺激が耳まで伝達される。彼らはこれで30-40km離れたところの音も捕えることができる。」(Wikipediaより)という象の特徴から着想しました。

作中の登場者の名称は全て「トランプ」が元です。

実作ではA・Bパートの文体を変え、別種の読み味の文章が並立しているようにしたいと考えています。

文字数:356

課題提出者一覧