太陽と月の天文台

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梗 概

太陽と月の天文台

サモス島のメデスは妻が亡くなった時にも月の観測をしていたような男だったので、息子夫婦が流行病であっけなく亡くなり、遺児である兄妹を天文台に引き取ることになった時にも、幼い彼らが観測の妨げになるのではないかと、そればかりを心配した。

しかし孫のネストルと孫娘のメリッサを迎え、夜空を共に見上げた時にメデスの懸念は消えた。二人の孫は、息子には引き継がれなかったメデスの目を持っていた。二人は惑星と恒星を教えずとも見分け、メデス以外の者には一つにしか見えない星を双子星であると言い当てた。

メデスは二人に天文学と幾何の知識と技術を授ける。

 

ネストルが祖父に引き取られて37回目の満ちゆく半月の日が巡ってきた。今日こそ太陽と地球と月の作る角度を正確に測定したいとネストルは願った。祖父のメデスが満足する測定値はまだ出せていなかった。欠けゆく半月の日と合わせると73回目の半月だが、そのうちには、観測に適さない日も多かった。そもそも半月の日といっても、ネストルの目には半月でない月も多かった。

ネストルは造営が終わらぬまま放置されているヘーラー宮殿の、太陽と月の天文台の測候台に立つ。ぐるりと胸あたりまで石が積まれ、石の縁には正確に16方位が刻まれている。

ここでは、その昔、アリスタルコスが女神ヘーラーに宇宙の中心には何があるかと問われたという伝説が残っていた。

陽が傾き始め、空の高い場所にうっすらと月が見え始める。ネストルは妹のメリッサを助手にして、自作の測定版の基点に棒を刺し、残りの二本の棒と糸で手早く太陽と月の方位と高度を測定版の上に立体的に構築していく。その場で角度を測っていては太陽の動く速度に間に合わないことはとっくに学んでいた。

いや、太陽の動く速度ではない。地球が自転する速度だ。動いているのは地球なのだ。作業に4分かかれば太陽の位置が1度ずれる。

 

半月の日は、太陽が月を真横から照らしているので、太陽と月と地球で直角三角形を作っているはずだと考えたサモス島の天才科学者アリスタルコスは、そのことをきっかけに紀元前3世紀に地動説を確信した。この発見には、アリスタルコスより少しだけ若いアルキメデスも驚いたようで自分の著書に書き残しているほどだ。

 

メデスはそのアリスタルコスの愛弟子ソロンの末裔だった。

ソロンは師の地動説が人々に受け入れられないことを嘆き、地動説を広めることに己の一生を賭しただけでは足りず、忘れ去られようとしていた地動説を継承していくことを一族の勤めと定めた。

 

23回目の満ちゆく半月の日にネストルが出した測定値は、メデスを満足させるどころかアリスタルコスの測定値を上回る正確さで、その値を元にして考えるとメデスの長年の疑問を解き明かすものだった。

 

メデスは安心したのか、徐々に寝込むことが増えた。

いよいよいけなくなった時に、メデスは測候台に連れて行ってほしいと頼む。

ネストルはメデスを背負い測候台へと向かう。空を眺めながら死を待つメデスとネストルたちを突然、青い光の渦が取り巻く。

驚き怖れるネストルとメリッサに、メデスは、ゼウスの正妻である女神ヘーラーが、宇宙の仕組みを問うているのだと言う。そしておまえが応えるのだとネストルを強く促した。

ネストルはメデスに言われるままに、光の渦に入り、宇宙の中心に太陽を置き、地球と五つの惑星をその回りに公転させ、そこから遙か遠くに恒星をいくつか置いた。

光の渦の中には確かに人の姿に似たものの影がうごいていたが、それが女神ヘーラーであるかどうかネストルにはわからなかった。

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