lights off

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梗 概

lights off

ロックバンド・シヴァシネのボーカリストの三塚は、メジャーデビュー直後からライブの演出を自ら担当することにした。 

ナノマシンにより、通信などの機能が脳内に移行していた。三塚は、自分の脳と、ライブ会場の空気中に大量に舞っているナノマシンや照明を制御するコンピュータをつなぎ、ライブ中に、その時の気分によってその場で演出をした。衣装やメイクの粒もナノマシンでできていて、次々と変化させた。脳内のイメージを具現化することが可能だった。 

集中力が必要な作業だったが、三塚は驚異的な才能で実績を上げた。同じツアーでも各会場で異なる演出や他の要素も評価され、シヴァシネはメジャーバンドとして人気を獲得していった。
 同じシステムを導入したアーティストも増えていったが、三塚の演出力は突出していた。舞台監督による計算されたものではなく、歌っている本人による感情的とも言える演出は、MCをせず、ミステリアスな雰囲気の三塚の心をのぞいているような錯覚をファンに生じさせたことも魅力のひとつだった。 

すべては順調かに思えたが、徐々にメンバーの関係に亀裂が走っていった。三塚本人は気づいていなかったが、彼女は確実に消耗していた。ストレスと驕りにより、周囲につらく当たるようになっていたし、酒量も増えた。メンバーの一人である波里は、そんな三塚を心配し、何度も話をしようとしたが、三塚は、うるさがって耳を貸そうとしなかった。 

ある日のライブ中、とうとう波里は行動を起こした。演奏中に三塚に通信したのだ。ライブ中は、三塚は集中するために、スタッフとメンバー以外からの脳内着信(テレパシー)を拒否しているため、他の人からの着信を言い訳に会話を避けることができない。常識外れのタイミングで話しかけたほうが相手にされやすいだろうという思惑もあった。 

話がある、と切り出した波里に、三塚は歌いながら、頭の中で怒鳴った。
『今ライブ中なんですけど!?』
『普段話しかけても相手にしないだろ。本当にお前と話がしたいんだ』 
 波里は、本気で三塚を心配しているから、一度活動休止をして、これからのことを考えてみないかと提案する。
『ふざけんなよ。それが今する話!?』
『そうだよ。お前のことを愛してるんだ!』 
 三塚は動揺し、彼女に頼り切っていた演出・照明は完全にダウンしてしまう。三塚は暗くなったステージで波里へ怒鳴る。
「どうしてくれんだよ! ライブが台無しだろ!」
「ごめん。あの、愛してるっていうのは、メンバーとしてっていう意味で」
「は?」
「メンバーとしてお前を愛してる!」 

その後の会議で、演出方法を見直すことが決まった。 

二人の会話を聞いていた前列のファンが、内容を拡散し、話題は沸騰。ライブが中断したことよりも、二人の間になにかがあったことが注目され、批判は集中しなかった。
 三塚の負担が減り、メンバーは改めて音楽に向き合うことができるようになった。

文字数:1202

内容に関するアピール

音楽フェスに行って高まった勢いで書きました。

とは言っても、コンサートやショーの描写は、今まで賞に落選したものなどにも何回もしつこく書いています。このテーマに執着、もとい、思い入れがあります。

課題のテーマにあまり即していないかもしれませんが、テレパシー的なものは、いつか実現するのではないかとなんとなく思っています。歌いながらイメージを構築することも、練習すれば演奏しながら歌えるようになることと同じで、身につくだろうし、頭の中のイメージをデータ化して、霧のようなナノマシンの集まりで表すこともできるという設定です。いくつの思考を同時に持てるかは個人差があると思いますが、三塚は、才能とナノマシンの機能のおかげで、ハンニバル・レクター以上に複数の思考を同時に持てます。でも、無理してなんでも一人でやろうとするのはいけないね、という話です。

文字数:368

課題提出者一覧