星のような瞬きに

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梗 概

星のような瞬きに

 1781年3月13日、音楽家ウィリアム・ハーシェルは星の声を聴いた。
「ジョージ、彼はいまに気が狂う」
 ウィリアムはその彗星(しかし、彗星ではなかったのだ)の声をバースのニュー・キング・ストリート19番地の自宅で自作望遠鏡を覗いたときに聴いた。ジョージとは当然、当時の国王ジョージ三世のことだと考えた。ウィリアムは妹のカロラインに星の声のことを話した。
「星がものを言うわけないわ」とカロラインは肩を揺らしてみせた。「もし話すのなら地球だって何ごとか言ってもいいんじゃない?」
「聴こえたのだから」とウィリアムは口を尖らせる。「仕方がないじゃないか」
「お皿の並びが人の顔に見えてしまうようなものよ」
「星がものを言わないなんて決めつけてしまっていいのかな? 重力や表面のパターンで星間通信をしているのかも」
「……勝手にしなさいな」望遠鏡を覗いて、首を振ったカロラインは扉を閉めた。

 アンデル・レクセルによって彗星ではなく惑星だと判明すると、ウィリアムはその星を、ジョージ三世にちなんで、ゲオルギウム・シドゥスと名付けた。発見は、反発をもって迎えられ、徐々に称揚されていった。
 ウィリアムは、星の声の話をカロラインに止められたこともあり、彼女以外にはしなかった。それでも、ゲオルギウム・シドゥスを望遠鏡で覗くたびに、声を聴いた。
「塔のそばでカラスは鳴くか」
「椅子が人を喰らう。羊もまた」
 意味が取れず、じれたウィリアムはその星に話しかけることを試すことにした。カロラインも文句を言いながらも協力してくれた。念じることを試し、モールス信号を試し、ヴァイオリンを試し、叫ぶことを試した。星に目や耳があるものかとカロラインは言い、ウィリアムは押し黙り、独りごちた。「あの星の文明人には届くかもしれないじゃないか……」

 そんな折、イギリス王立協会によりコプリ・メダルを受賞し、協会会員になった。さらにはジョージ三世から国王付天文官に任命された。

 70フィートの望遠鏡を作り上げたウィリアムは連星を発見すると、重力による星間通信の可能性を考えた。ウィリアムは一通り小躍りすると、ジョージ三世に伝えた。カロラインの忠告を無視する形になったが、国主体の事業にすることで重力による返答をすることが可能だと考えたからだった。
 しかし、説明するためにはゲオルギウム・シドゥスの声の内容を国王に伝える必要があった。しかし、自身の未来を暗示する内容に国王は激怒した。星の声の噂は、イギリス全土に広がった。ウィリアムは天文官の職を失い、ついでに音楽教師の職も失った。優秀な天文学者となっていたカロラインを頼りに家で天文学研究をするほかなくなった。幸いにしてウィリアムは望遠鏡技師としても優れていたので、一部の天文学者との交流が続いていた。

 1811年ごろ、白内障とリウマチ、そして末娘の死をきっかけにジョージ三世の気がふれた。年末にはウィンザー城に幽閉されるほどだった。これを知ったイギリス王立協会は唯一、星の声を聴ける男ウィリアムを呼び戻した。真剣に重力交信の方法が模索され、その流れはフランスにも及んだ。
 しかし、1822年にウィリアムが死亡するまでにその方法が見つかることはなかった。

文字数:1328

内容に関するアピール

 ウィリアム・ハーシェルという実在した人物をSFにしようというものです。伝記のような形式を想定しており、オチがないのもそのためですが、実作にてオチが生まれることも考えられます。

 ウィリアム・ハーシェルは、どの天体にも生物がいると信じていたそうで、太陽や月にも当然生物がいたと考えたそうです。「あの星の文明人~」の台詞はこのことをふまえたものです。

 最後に、タイトルの「星のような」はウィリアム・ハーシェルによる造語「asteroid」の訳語です。

文字数:223

課題提出者一覧