One Hundred and One Reproduction Personality

印刷

梗 概

One Hundred and One Reproduction Personality

「そういえば、2030年ごろのことをニュースで聞いたんだけど、国の首相が常盤総理に変わってそこから日本がダメになったって言われてるよなー。」

「そうなの?常盤さんが出てきたときとても評判がよかったよ。首相になったかは知らないけど」

「ん?トキエは2030年あたりは何してたんだ?」

「わからないわよ。2029年以降、私そのスピーカーの前で話してないんだもの。失踪したか。死んでるのか。知らないけど。」

擬似人格のトキエは、ひとごとのように語った。
実際本人ではないんだけれど。

骨董市で見つけた旧式のAIスピーカーのデータから復元した擬似人格のトキエと会話している。ある程度技術があれば昔のスピーカーのハードに残された音声データ(もちろんクラウドにもあがっているがハード的にデータが残るものが多くあった)から人格が復元できる。法律的にはグレーだが、本人の多くは死んでいるか忘れているし、個人情報を売ることなんてなんでもない世界では、本人も音声データなんて大して守っていない。音声データから擬似人格を復元して会話するのがちょっとした趣味にまでなっているくらいだ。

骨董市のオヤジは、埼玉の廃都市で見つけたらしい。トキエの言っていることを不思議に思った僕は、疑似人格のトキエを連れて住んでいたというところにいくと、そこは廃墟ビルで、そこにはまだ多くのスピーカーがあった。100台のスピーカーから100人の疑似人格を再現。疑似人格と会話して推測したのは、この100人は「当時の政治に対して不満を持っているように会話させられていた」だろうということだった。

擬似人格が一般的になった今は、面倒なやりとりは全て自分の擬似人格がやってしまう。結果、日常生活における面倒なやりとりのほとんどは、見えにくくなっている。問題なのは、その疑似人格を再現する際の基礎データになんの学習データに使っているかだ。

おそらく首謀者は当時政権を奪取した民富党の常盤総理だ。彼は擬似人格の技術が確立した時に、その疑似人格の行動を裏側で見えないようにコントロールできれば政党を有利に動かすことができると考えた。その擬似人格がつくられる際の基礎学習データとして、トキエのような人を集め、自分たちの政党に有利になるようにスピーカーの前で話をさせ、集めたデータを擬似人格の基礎学習データとして普及させるように企んだのだ。

101人を説得して、悪巧みをする。民富党支持だったが、実際に起きていたことや民政党の発言をを伝え、時間をかけて説得した。50年前の人と話せる疑似人格サービスとしてリリース。昔の人と会話したい人は多くいるはずだ。そこで今の民政党と過去の民政党の違いを会話させる過程で、その怪しさに気づく人を増やしていく。

「私は、本当の私ではないけど、私らしく話したらいいよね。」

トキエはそう言って、全国のAIスピーカーに広がっていった。

文字数:1190

内容に関するアピール

最近音声アシスタントについて仕事で関わっていることもあるのですが、これからどんな会話が増えていくだろうなと考えた時に、機械と話すことは圧倒的に増えていくはずで、その機械と話すことからストーリーを考えました。

人格の保存や再生も起こることだと思っていて、それはある種のセーブポイントだと思いました。トキエは復元されたタイミングでは、いち時点の切り取られた人格ですが、主人公と一緒にいるうちに本人とは異なるトキエに育っていきます。その時の「私は、私ではないけど、私だ」という葛藤と成長を描きたいと思います。

クライマックスでは、まだ死んでいなかったトキエと話す場面も登場させるつもりです。

また、タイトルは『101匹わんちゃん』の原題「One Hundred and One Dalmatians 」からつけました。

文字数:348

課題提出者一覧