ループ

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梗 概

ループ

時間の謎を解く公式が発表され、現在・過去・未来が同時に存在することが公として認識されたのは昨年のことだった。発表当時は、時空旅行等の様々な夢が飛び交ったが、秩序を保つ為、具体的な施策や研究は一部の機関に留められたが、未来からの予言が届いたように見せかけたフェイクや噂話で溢れかえった。混乱の中、一部で、現在から未来へ流れているこの時制ルール自体が偶然作り出されたもので、おかしいのでは、と言う考えも現れ始めた。

時間の研究を行っている大友冬美は、同じ研究メンバーの木下一馬が、密かに時空の流れを全て逆に戻そうと画策していることに気づく。木下を止めようとする冬美が、説得するも、木下は現在の間違った流れを正すのだと主張を変えない。何故、何もかもが起こってから、理由を聞くのだ。ただ起こった現在の結果から理由と起源を探る方がシンプルなのだ。過去や未来や現在が溢れかえっている宇宙の秩序を正すために、過去へと時間を戻すことが本当の秩序なのだ、と。

冬美は、木下の言い分は建前で、過去に戻すことで、数年前に亡くなった妻の木下澄香に会いたいだけなのでは、と勘ぐる。公明正大な理由で固めても、小さい欲望に囚われているだけ。一研究者として、正しいことをしなさい、と諭す。あなたは無茶な理由づけをしているだけ。自分の欲望の為に秩序を失って、世界を壊す気なの?

冬美は夢を見る。木下と二人で暮らし、木下は妻のことを忘れ、木下が新しい研究を始めている、と言う夢だった。

目を覚ました冬美は木下を探すが、木下の姿はなく、木の下からの手紙が残されていた。世界の秩序を乱すことなく、木下一人の時間だけ過去に進める方法を見つけた。過去も未来も現在も、同じように意味があるのだから、過去に行く、と手紙に書かれていた。

冬美は少しだけ過去に戻り、手紙を書く木下と話そうとするが、木下の意志は固く、木下は過去へと去ってしまう。 冬美はさらに過去に戻り、木下の妻、澄香に会いにいき、木下を現在に戻すように説得するが、成功はしなかった。冬美がただ、木下に惹かれているだけの行動をしていて、自分の思い通りにするように、都合のいいように物事を進めているだけなのでは、と批判をされる。

木下を止める手段が思いつかなくなった冬美は、過去に進むのを止める。自分が過去に見た夢について、木下が新しい研究を始めるという夢が、いつか起こりうる未来のように感じる。早く未来が見たくて、高速で未来に移動する。冬美と同じように、木下も過去を夢見て戻っていっていた。いつか冬美が死ぬ未来、木下が生まれる前の過去に辿りつくだろうが、今のところ、この現在においては、まだ夢を見続けるだけの時間は残されているのだった。

文字数:1118

内容に関するアピール

時制が狂っていく世界の中での会話を描こうと思います。

3回のやりとりは下記です。

1、未来にいる人と、現在にいる人の会話。

2、同じ現在において、志が異なる人の会話。

3、過去に戻っていく人と、未来へ進む人の会話。

文字数:103

課題提出者一覧