分裂する脳

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梗 概

分裂する脳

アキオ少年は、いつも遊んでいる友達があまりにも酷い悪戯をするので、鍵のかかる部屋に閉じこめた。
 少年の心の中の出来事。
 
 それから数年後。
 多重人格製造アプリ「ぶんれつ」が流行する。
脳内のニューロンで発生する電気スパイクと神経伝達物質を操作して、いろいろな性格の自分になれる!というアプリ。
ビジネスやプライベートの各場面に適した性格の自分を作り出せる、ということで大流行となった。
本当に脳内のニューロンを操作しているとは誰も信じずに遊び感覚だった。

 少年だったアキオは30歳になり「ぶんれつ」を使用した。内気な性格をもっと積極的にしたかった。
アキオも遊び感覚の軽い気持ちでスマホから流れる電子音に耳を傾けた。しかし、アキオの脳内は三人の人格に分裂してしまった。
そのうちの一人は子供のころ部屋に閉じ込めたあの悪戯をする友達だった。
 
 そして、事件が発生する。
その事件の容疑者の男は、警察に追われビルの屋上に逃げる。そして、屋上から飛び降りて昏睡状態に陥る。

 アキオは目覚める。
一面砂に覆われた見知らぬ場所にいる。
アキオは自分が何者なのか、何故こんな所にいるのか分からない。
アキオという名前も覚えていない。
ただ、自分の意識がこの砂だらけの場所にいるということだけを認識していた。砂という言葉も分からない。歩くと足が沈み手に取るとサラサラと指の間を流れていく感触だけは感じていた。
そこは静かだった。アキオはまだ音というものを感じていない。そんなアキオの耳に初めての音、声が聞こえた。
「アキオ、聞こえる?」
アキオ?僕のことかなのか?。
「誰?ここは何処?僕はどうしてこんなところに?」
「よかった。アキオ、生きてるのね。ここはねぇ、アキオ、一言でいえばアキオの頭の中。
 記憶が無くなってるの?大丈夫だよ。少しずつ記憶は戻ると思うから。
 あんまり時間がないの。わたしが言うことを急いでやってね」
「え、何、全然分かんないよ。何をすればいいの?」
「ある人を捜して殺して欲しいの。そうしないとアキオの脳が壊れちゃうの」
  
 アキオに話しかけているのは花だった。
バラのような大きな花で赤と青の花びらが混じっている。砂漠の中にいくつも咲いていた。
「ここはアキオの心の中の風景。アキオの脳が作り出したもの。どうして砂漠なのかは、わたしにもよく分からないけど。
 アキオもわたしも同じ一つの脳の中にいるの。今捜している人、アキオの昔の友達も同じ脳の中にいる。脳が三つに分裂しちゃったんだよ」
 アキオは花と会話をして今の状況をなんとか理解しようとする。

「ねぇ、アキオ、昔の友達のこと覚えてる?」
「全然覚えてない。僕には友達がいなかったから。でも心の中に誰かが……」
 
 アキオは朽ち果てた小屋を発見する。
 ドアは壊されていて誰かがこの小屋から逃げ出したようだ。
 アキオは逃走した昔の友達を追跡する。
 遠くに走って逃げる友達を発見する。花たちが茎を伸ばして友達を捕まえる。
「さぁ、アキオ、この悪い人格を殺してー!」
「殺すって、どうやって?それに彼も僕なんだろう?」

 病室のアキオは苦しそうに呻き声を漏らして眼を開ける。
 アキオの脳は分裂したままだった。

文字数:1308

内容に関するアピール

主な登場人物はアキオ一人です。
アキオの脳内の三つの人格の会話を、魅力的なやり取りとしてストーリーを進めていきたいと思います。
会話が進んでいく段階で、一人の多重人格者の脳内で起きていることだとわかるように描きたいと思います。

多重人格製造アプリ「ぶんれつ」は、誰が作って誰が配信しているのかもわからずに、巷の人々に広がっていきます。
この不気味さも会話の中から出したいと思います。

文字数:187

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