遠路はるばる

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梗 概

遠路はるばる

 

アンドロイドが人口の大半を占める世界。半世紀前に起こった工業革命で、機械たちは意志をもち人間社会を乗っ取った。一部のドロイドが人間狩りをおこない、人間はほとんどが死滅してしまった。
残されたアンドロイドはパーツを修理・交換しながら活動を続けているが、人間がいなくなった後の世界では生きる目的も仕事も失い、結果的に彼らの社会も衰退しつつある。大陸にはスクラップをおそれたアンドロイドが難民として溢れ、居場所を求めさまよっている。

主人公である修理工ロボットのケントが乗る巨大航空輸送船(通称「オンボロ」)は、南にあるといわれている大型工業都市を目指し南下していた。乗組員はすべてアンドロイドだが、ケントは修理の最中、人間の少女ルルガが混ざっていることに気づく。ルルガは港町にあると噂されている人間の生き残りが集まったコロニーにたどり着くことを目的としていた。
アンドロイドは大半がかつて工場で作られた大量生産型であり、型にはめられて製造されるために容姿が似通い、整っている。ルルガは人間だが、たまたま左右対称の人間らしからぬ美しい容姿をしていたため、アンドロイドに紛れて生活していた。ケントはルルガがうまく乗組員に紛れられるよう手を貸すが、やがて警備ドロイドに見つかってしまう。

危うくスクラップとして下船させられるところだったが、警備ドロイド以外の乗組員たちが手を貸してくれる。彼らはほとんどが古い型の、人間がいた時代を知るロボットだった。みな、人間のもとで働いていた頃の、仕事があり責務があり生きる意味のあった時代を懐かしんでいた。半世紀ぶりに見た人間のルルガに対し、ロボットたちは敬うような態度を見せる。

やがて海が見え、ルルガは船をおりていった。見送りながら、修理の名目でルルガの体を見てしまったケントは不思議に思う。アンドロイドの体は、鉄でできた骨格と人工の筋肉、張り巡らされた細い血管でできている。動く際の電気信号は頭部のコンピュータから送られ、また五感も信号として届けられる。アンドロイドはどんなに手を尽くしても、人間という存在を作り出すことはできなかった。パーツもなく、機械仕掛けでもなく、単一の有機物の塊で、一体人間たちはどうやって生きているのか。ケントはその生のあり方になにか別次元的なものの存在を感じ、神に対するような畏怖の念を抱いた。

文字数:973

内容に関するアピール

 

今回のテーマはSFの「定義」であるが、私にとってのSFとは「異世界の独特のルールや生活習慣を描くことによって、現実の自分達の常識を揺さぶることができるもの」である。

主人公であるアンドロイドは、非常に明快なシステムで動いている。頭部におさめた「脳」と呼ばれるコンピュータから発信される電気信号で四肢を動かし、動力源である「心臓」は絶えず全身に「血液」を運んでいる。栄養源である食事をとり、「消化器官」を通しエネルギーに変え、役目を終えれば「排泄」もする。夜には電源を切って「睡眠」もとる。それに比べ、人間の体は得体の知れないひとかたまりの有機物でできており、アンドロイドにとっては理解できない未知の生命体である。この世界ではアンドロイドたちの方が現実の人間に近い存在であり、人間であるはずのルルガの方がブラックボックスのような得体の知れない存在である。そして数少ない人間は多くのアンドロイドによって神格化されている。

本作では、人間とアンドロイドの存在を逆転させ、またそこに、人間と神についての相対関係も絡めている。現実の人間とは何なのか、何をもって人間とするのか。異化効果によって読者に問いかける作品を目指したい。

 

文字数:506

課題提出者一覧