梗 概
大規模小売店舗法不成立
少しだけ異なる歴史を辿った、20XX年の日本。
この国は大型量販店グループ “ジャオン” が全ての流通小売業を支配していた。
国民全員が顧客行動データによって管理され、一人一人に最適な消費行動をサジェストされる消費ディストピアの社会に生きていた。
日本の小売店の99%はジャオングループの傘下に入り、個人商店や商店街といった存在はもはや歴史の教科書にその名を残すのみとなった。
この国の人々はこの世に生を受け、出生届が受理されて日本国民となったその時から例外なく、その人生のすべてが記録される国民管理システム”ジャオンカード”に登録された。
小学生からお気に入りの文房具用品、初めて買ったCD、調子に乗って中学生でギターを初めて高校生で飽きてやめるまでの動向、試しに買ってみたもののいまいち合わなかったヘアワックス、最近気に入ってよく買っている調味料、平日の職場付近ランチローテーション──。
ジャオンカードの購買行動記録には文字通りその人の行動、人生のすべてが余すことなく記されていた。
そして、それらは全カスタマー(国民ともいう)の行動管理データとしてジェスコ本社のカスタマーリサーチ課に集約され、この国を支配する大型量販店”ジェスコ”のマーケティングに利用されていた。
日本の全カスタマーがソースとなった圧倒的ビッグデータを元に構築された超大規模でありながら正確無比なマーケティング戦略により、人々はその社会全てをメディアとしたおすすめ商品のサジェストに晒され、なんとなく自分にとって最適な気のする消費生活を送っていた。
大学生のオカダは、ある日曜日の午後に大型ショッピングモールへと一週間の買い出しに出かけた際に、自分の望む商品があまりにも容易に手に入ることに疑問を抱く。
そして幼なじみの女の子シノハラと共に、NPO法人「適正な消費行動を考える消費者の会」を立ち上げた。
・・・・・・正直今の生活にそんなに不都合はないかもしれないけれど、寡占産業がのさばるのはなんとなく許せなかった。
彼らはまず活動を共にする同志が必要だと仲間を集めた。
──田舎者は他に集まるところがないので、とりあえずジャオンのフードコートでスカウトした。結構集まった。組織が大きくなった。
まずは敵を知って、己を知るのが先決だと、組織内での知の共有と情報収集を志した。
──ジャオンモール内の「過去屋書店」で本を買った。本当はどう考えても海外の遠隔通信販売システム「ナイル」のほうが品揃えが段違いに良かったが、国策として利用が禁じられていた。
仲間を集め、情報を得た彼らは巨大な権力と張り合うためには力が必要だと気づいた。銃器の所持は法律で禁じられていたが、幸いなことに収集した本の中に日用品の応用で武器を作る方法が記載されていた。
──ジャオングループのホームセンター「サタデー」で素材を買い揃えた。ジャオンカードのポイントが結構貯まった。
そんなある時、主人公たちに打倒ジャオンを掲げる過激派法人「セブンアンドユー」が、彼らとの共闘を求めて接触してきた。
だが、話をしてみるとセブンスグループの思惑と主人公たちの思惑もまた違っていることに気づいた。
現在の状況を覆したいという意志は同じであった。
だが、そこからが違った。
セブンアンドユーはジャスコ一店のみが支配する寡占状態の打倒を望んでいた。
「ただ、今の社会の頂点にいるものを引きずり下ろして自分たちが一番上に収まりたい」
それがセブンアンドユーの目的であった。
だが、それでは今の社会は何も変わらないと考えたオカダ達はセブンアンドユーと袂を分かつことを決める。
オカダ達はジャオングループ以外でも買い物ができる自由競争市場を望んだ。
すると、彼らは逆にオカダ達に向かってこう告げた。
「お前たちは、知らないのだ。
お前たちが手にした武器も、立ち上がるために必要な知識を得た本も、全てジャオンの周到なマーケティング戦略によってお前たちに買わせようと仕組んだものだ。
お前たちは気づいていないのだ。
体制への反抗さえ、ジャオンのサジェストによって育まれ、ジャオンで消費することでしか成り立っていない。
すでにカスタマーの行動は、自分の意志などが介在する余地など存在しない──あるのは、ビッグデータによって導かれる”最適な意思決定”による”最適な人生”、それらが重なりあって成り立つ”最適な社会”。その操り人形がお前らなのだ」
思いもよらない現実をつきつけられた主人公たちは愕然とし、なすすべもなく立ち尽くした。
ある者は手に持った武器を落とし、ある者は膝から崩れ落ちた。
道路に落ちた武器に、街頭ビジョンのコマーシャルが鈍く反射した。
「ジャオンは日々のいのちとくらしを、開かれた活力のある行動で『夢のある未来』へと変えていきます」
・・・・・・それからしばらくの月日が流れた。
衝撃の事実を知らされたNPO法人のメンバーは一人、また一人と失意のうちに立ち去った。
気がつけば最後まで残ったのは、結局最初の二人であるオカダとシノハラだけであった。
オカダとシノハラらの企ては完全に失敗した。彼らは、そのまま二度と立ち上がることはなかった
──世の中は何も変わらなかった。
──だが、特に不都合もなかった。
なぜなら、ジャオンカードの記録によって管理された精緻なビッグデータを元にカスタマー一人ひとりのニーズに的確に応えるように調整された消費社会は、とても居心地の良いものだったから。
(終)
文字数:2220
内容に関するアピール
大型ショッピングモールに支配されてディストピアと化した日本──。
バカバカしい発想だと自分でも思いますが、中には妙な納得をできる人もいるのではないでしょうか。
・・・・・・風景が寂しい土地のご出身の方(配慮ある表現)とか特に。
2016年にSFを書こうとして今更ディストピアもないんじゃないかなあとは思いつつも、初回ではせっかく「あなたの考えるSF」というありがたくも難しいテーマを頂きましたので、尊敬する藤子・F・不二雄作品のテイストを入れた梗概を提案させていただきました。
科学的な仮説を大胆な想像力で物語に消化させた作品はSFの魅力でありまた真骨頂、個人的にも 大好きな手法ではありますが、こんなSFもありですよねということでどうか一つ。
文字数:317